胸腔ドレナージの仕組みと看護
胸腔の解剖整理
正常な胸腔内は常に「陰圧」で保たれています。 肺を風船に例えると、胸郭は肋骨などで作られた硬い箱で風船(肺)と箱(胸郭)の間の隙間が胸腔です。 胸腔内には肺側の臓側胸膜と胸郭側の壁側胸膜の2枚の膜があり、胸膜の間は少量の胸水で満たされています。肺はゴムの力で常に内側へしぼもうとしますが、 胸郭は常に外側へ広がろうとします。この陰圧の力によって肺はピンと広がっていられます。
この胸腔に液体か空気がたまったときに問題が生じます。その問題を解決または、診断のために胸腔ドレナージを行います。

胸腔ドレナージの目的・適応
胸腔に対する処置には「胸腔穿刺」と「胸腔ドレナージ」があります。
胸腔穿刺と胸腔ドレナージの違い
- 胸腔穿刺: 診断目的での胸水採取や、症状緩和のための一時的な排液・脱気を行う処置。侵襲度は比較的に低くチューブの留置は行わない。
- 処置中に体位保持ができない、強い出血傾向がある、穿刺部位に感染がある、胸水が極めて少量などの場合は実施できない。
- 胸腔ドレナージ: 治療目的で持続的に排液・排気を行う処置。肋間を切開してチェストチューブを挿入・留置する。薬剤投与(局所治療)にも用いられる。
ドレナージの適応と目的
- 適応病態: 気胸、緊張性気胸、肺・食道・心臓外科術後、胸水貯留、血胸、膿胸など。
- 目的:目的は大きく分けて以下の3つです。
- 貯留物の排出: 胸腔内に溜まった空気、胸水、血液、膿などを体外へ排出する。
- 陰圧保持: 陽圧化した胸腔内を正常な陰圧状態に戻し、肺の再膨張を促す。
- 情報的ドレナージ: 排液量、性状、エアリークなどを観察し経過を確認する。
胸水の性状と病態の理解(漏出性胸水と滲出性胸水)
胸水が貯留した際は、その性状から病態を把握することが重要です。
- 漏出性胸水: 淡黄色透明。心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群など、うっ血、静水圧の上昇や膠質浸透圧の低下といった全身性の圧バランス変化で生じる。
- 滲出性胸水: 黄色〜混濁、血性、膿性などさまざま。感染症や悪性腫瘍など、局所の炎症や血管透過性亢進によって生じる。外観だけでは判別できないため、鑑別には検査値(Lightの基準)を用いる。
「気体(空気)ドレナージ と液体(排液)ドレナージ」の比較
実は空気のドレナージと液体のドレナージはドレーンの留置位置から違います。

| 項目 | 詳細比較(気体 vs 液体) |
|---|---|
| 貯留位置 | 気体: 空気は軽いため胸腔上部に蓄積する 液体: 排液は重力により胸腔下部に蓄積する |
| チューブ留置部位 | 気体: 肺尖部(胸腔上部)に留置する 液体: 肺底部(胸腔下部)に留置する |
| 使用チューブ太さの目安 | 気体: 16〜24 Fr(比較的細め/14 Fr以下の細径カテーテルを用いることもある)※排液同時貯留時は太めを選択 液体: 20〜28 Fr(比較的太め/血胸・膿胸は28 Fr以上が目安)※性状に応じて調整 |
胸腔ドレナージ(気体と液体の比較)
ドレナージ期間が短い場合はアスピレーションカテーテルなどもっとチューブ径が細いカテーテルを使用して留置する場合があります。
チェストドレーンバッグの仕組みと吸引方法
持続的にドレナージを行う場合、専用のドレーンバックにつなぎます。複数の製品がでており、チェストドレーンバック🄬メラアクアコンフォート🄬など施設の製品採用によって違いますが構造は一緒です。
チェストドレーンバッグは3つの部屋(排液室、水封室、吸引圧制御室)で構成されます。
患者さんにつながる方から排液室⇒水封室⇒吸引圧制御室そして吸引機につながる構造です。

3つの部屋の役割と観察ポイント
| 部屋名 | 役割・原理 | 主な観察ポイント |
|---|---|---|
| ① 排液室(コレクションチャンバー) | 胸腔から排出された液体(胸水・血液・膿など)を溜める。水封室と繋がるため、倒したり満杯になると水封室へ混入する。 | 1日の排液量、排液の性状(色・混濁度・粘性) |
| ② 水封室(ウォーターシールチャンバー) | 滅菌蒸留水で封をし、空気が体内に逆流するのを防ぐ一方向弁(関所)。胸腔内圧が水圧を超えると外へ排気される。 | 呼吸性変動(水面の上下運動)、エアリーク(気泡の有無)、蒸留水の規定ライン保持 |
| ③ 吸引圧制御室(サクションコントロールチャンバー) | 注入する滅菌蒸留水の水位(高さ)で設定吸引圧を調整する「安全装置」。強力すぎる吸引圧から患者を保護する。 | 蒸留水の蒸発による減少有無(適正ラインへの補充)、設定圧通りの気泡が発生するか |
胸腔ドレナージでは排液の量と性状だけではなく、水封室のエアリークの有無、呼吸性変動の有無、吸引圧の管理が重要となります。
吸引方法の分類
- 低圧持続吸引法(能動的ドレナージ)
- 電動吸引器(メラサキューム等): 電気・充電で動作。機器自体が吸引圧制御室の役割を担うため吸引配管は不要。
- 手吸引配管接続: 壁の吸引配管を使用する。手動で設定を行う。
- 水封式サイフォン法(受動的ドレナージ / ウォーターシール)
- 吸引圧をかけず、重力と大気圧の差(サイフォン原理)を利用して落差で流す。バッグを必ず胸部より低い位置に設置する。
胸腔ドレナージでは移動する際に吸引圧を持続的にかけることが難しいため、一時的に吸引機を外して「ウォーターシール」の状態にしてから移動することが一般的です。(移動方法は医師に確認する)
「呼吸性変動」と「エアリーク」の観察ポイント
胸腔ドレーン管理に特徴的な呼吸性変動とエアリークの見方です。
呼吸性変動(水封室の水面上下運動)
- 吸気時: 横隔膜が下がり胸郭が広がるため、胸腔内の陰圧が強くなり、水面が体側に引き寄せられて上昇する。
- 呼気時: 横隔膜が上がり胸郭が縮むため、胸腔内の陰圧が弱くなり、水面が下降する。
呼吸性変動が消失した際に考えるべき3つの原因
- ドレーンチューブの閉塞・屈曲(血塊や凝集物によるつまり、折れ曲がり)
- ドレーンチューブの自己抜去・事故抜去(抜け)
- ドレナージにより肺が完全に再膨張し、胸腔内のスペースが消失した(胸部X線で確認)

※胸腔内の陰圧は呼吸によって変化します(以下は自発呼吸の場合です。人工呼吸器による陽圧換気中は水面の動きが逆になります)。
※閉塞が疑われる場合は、回路の屈曲を修正し、改善しなければ医師へ報告します。「ミルキング」は胸腔内に過度な陰圧がかかるおそれがあるため日常的には行わず、凝血塊などで閉塞リスクが高い場合に医師の指示・施設基準に沿って実施します。
エアリーク(水封室の気泡)
肺に穴が開いている(気胸など)場合、漏れた空気がドレーンを通って水封室に達し気泡になります。そのほか、ドレーン回路の異常、刺入部の異常でドレーン回路が閉鎖されていないと気泡が発生します。
エアリーク観察のポイント
- 量と持続時間: 呼気時や咳嗽時のみの断続的なものか、あるいは持続的か(自発呼吸では呼気時・咳嗽時に、陽圧換気中は吸気時に出やすい)。
- 出現タイミング: 咳嗽(咳)時のみか、安静時にも持続するか。
- 発生源: 患者側(肺・刺入部)か、回路側(接続部のゆるみ・破損)か。刺入部から排液バッグまで順にたどって確認する。
- 経過変化: 日数経過とともに減少しているか、長期間(目安として5〜7日以上)持続していないか。
エアリークの状態と対処
| 状態 | エアリークの特徴と意味 | 具体的な看護対応 |
|---|---|---|
| 正常経過 | 挿入直後は持続し、肺の修復に伴い徐々に断続的となり消失する(気胸の場合) | バイタル測定時などに深呼吸や咳嗽をしてもらい、気泡の有無を確認。 |
| 異常サイン | 消失していた気泡が急激に増加・持続する(気胸の再発、回路の接続不良やドレーン刺入部異常) | ドレーン接続部・回路のリークや刺入部を確認し、医師へ報告。エアリークがある間はドレーンをクランプしない。 |
| 緊急対応 | 持続的な気泡発生 + 呼吸困難・SpO2低下 | 緊張性気胸へ進展するリスクを考慮し、直ちに医師へ緊急報告する。 |
胸腔ドレーン挿入中の看護
胸腔ドレーン挿入中は、原因となった原疾患へのケアを前提に、呼吸フィジカルアセスメントを駆使した呼吸管理・ケアが重要です。
固定方法について
固定方法はドレーンの観察をしやすいように刺入部は透明のドレッシング剤で覆うことが一般的です。排液が多い場合などはガーゼか、ガーゼ付きのドレッシング剤を使用します。
ドレーンカテーテルの固定は少なくとも一か所以上で、皮膚にテープを用いてオメガ止めで固定します。固定の際にカテーテルの圧迫で褥瘡が形成されないように配慮が必要です。
ドレーンは挿入位置異常がないかを観察するためマーキングもしくはカテーテルの長さを測定し、施設の基準に沿ったタイミングで確認しましょう。マーキングをする場合は皮膚とカテーテルの線を引き、ずれがないかを確認していきます。
排液性状の分類と病態リスク
| 排液の性状 | 主な特徴と経過 | 対応する病態・リスク |
|---|---|---|
| 血性〜淡血性 | 術直後に多く見られる。正常経過であれば徐々に淡血性から漿液性へと薄くなる。 | 術後正常経過。※急激な血性排液の増加(目安:1時間あたり100〜200 mL以上。施設基準・医師指示に従う)は出血の可能性が高いため、直ちに医師へ報告する。 |
| 漿液性 | 淡黄色透明な液体。 | 心不全・腎不全による胸水(漏出性)、または術後経過が良好な段階。 |
| 膿性 | 白く混濁、黄白色から褐色を呈する液。 | 膿胸(感染兆候)。 |
| 乳び | 白く白濁したミルク状の液。 | 乳び胸(胸管損傷等)。 |
乳び胸水は、開胸術後にしばしばみられ、栄養剤を投与開始したタイミングで見られます。基本的には栄養剤の投与を中止し、胸管の治癒(修復)をまって栄養剤の投与が再開されます。
ドレーン留置に伴うケア
胸腔ドレナージ挿入中は、持続吸引が必用な場合があり活動範囲が制限されてしまいます。また寝返りなどでカテーテルが引っ張られたり、カテーテルが体の下敷きになるなど誤抜去・皮膚障害などへの配慮も必要です。
ドレーン留置中は、カテーテル径によらず疼痛を生じることがあり、適切な鎮痛を図ります。
合併症への対応
- 皮下気腫: 肺やドレーン刺入部から皮下に空気が漏れて貯留する状態。触診時に「握雪感(ブツブツ・ザクザクとした触感)」を認める。頸部や顔面まで拡大すると気道圧迫による呼吸障害をきたすおそれがあるため、握雪感(あくせつかん)のある境界線をペン等でマーキングし拡大の有無を観察する。
- 再膨張性肺水腫: 長期間貯留していた胸水や空気を、短時間に大量(目安として1回1000〜1500mL以上)にドレナージすると、虚脱していた肺が急速に再膨張したことで肺に水分が移動し肺水腫を形成する。咳嗽、呼吸苦、SpO2低下が出現した場合は本病態を疑い、直ちに医師へ報告し、指示のもとで排液速度の調整(一時的なクランプなど)を行う。
- 排液バッグ交換時のクランプ: バッグ交換時はドレーンチューブを確実にクランプする。万が一の開放を防ぐため「原則2箇所クランプ」を実施する。ただしエアリークがある患者では緊張性気胸の危険があるため、クランプは最短時間にとどめる。

自己抜去・事故抜去時の対応
人工呼吸で陽圧換気をしているかで対処が変わってきます。
| 管理区分 | 事故・自己抜去時の状況 | 適切な看護対応 |
|---|---|---|
| 通常時管理 | 自発呼吸下の患者における抜去 | 外気が胸腔に流入し陰圧が破綻するのを防ぐため、直ちに刺入部を清潔ガーゼやフィルムで密閉する。速やかに医師へ報告し再挿入の準備を行う。閉鎖後に呼吸困難やSpO2低下が進行する場合は緊張性気胸を疑う。 |
| 人工呼吸器管理時 | 陽圧換気下(人工呼吸器装着中)の抜去 | 完全閉鎖すると陽圧換気により「緊張性気胸」へ進行する危険がある。刺入部には手で清潔ガーゼを軽く当てるにとどめ、空気を逃がしつつ直ちに医師へ報告する。 |
誤抜去時の初期対応
排液バッグの安全管理ポイント
- 位置保持: 排液バッグは常に患者の胸部(刺入部)より低い位置を維持し、逆流による感染を防止する。
- 移送時: 移動時も原則クランプはせず、バッグを胸部より低く保つ。やむを得ずバッグが挿入部より高くなる場合のみ、医師の指示のもと短時間クランプする(エアリークがある患者のクランプは緊張性気胸の危険がある)。
- 転倒防止: 排液バッグが転倒すると水封室に排液が混入したり水封が破綻したりするおそれがある。転倒時は直ちに起こして各室の水位と排液の混入を確認し、異常があれば医師へ報告のうえバッグを交換する。
- 離床時: 移動時のチューブ引き抜き事故を防ぐため、「点滴スタンド(IVポール)」への固定をするなどの対策を行う。
まとめ
胸腔ドレナーンの管理は他のドレーンに比べて違いがあり、適切な理解と管理が必用となります。取り扱う診療科も呼吸器だけでなく、心臓外科や消化器外科術後の方にも留置されます。診療科や施設により管理が少し変わってくるため、施設・部署の基準に沿った管理・ケアを実践していきましょう。
<受け持ちする際のチェック項目>
- ドレーン回路の接続・屈曲・閉塞がなく、指示通りの吸引圧(または水封)が維持されているか
- 排液バッグの位置は患者の胸部より低い位置に保持され、転倒防止の固定がなされているか
- 水封室の水位は規定ラインまで入っており、呼吸性変動の有無およびエアリークの有無を確認したか
- 吸引圧制御室の蒸留水は蒸発しておらず、設定ラインまで維持されているか
- 排液の量・性状(色・混濁度)に急激な変化や出血兆候(突然の血性排液増加等)がないか
- 呼吸のフィジカルアセスメントを行い、呼吸の性状に異常がないか
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呼吸器ドクターひつじさんの動画:


