ここでは日常でよく見る検査データの読み方についてを紹介したいと思います。
血算検査
血算検査とは血液中の有形成分、つまり赤血球、白血球、血小板に関する検査です。
3つのうちすべてが低下しているのか(汎血球減少)、どれかが増加減少しているのかを確認し、経過の変化をみていきます。
貧血の状態を見る
ヘモグロビン濃度(Hb)を中心に、ヘマトクリット(Htc)や、平均赤血球容積(MCV)など総合的に見て評価します。
赤血球に関連する血算の正常値
※文献や施設により基準値はが若干異なります。
男性 | 女性 | |
赤血球数(RBC) | 400〜550万/μL | 380〜480万/μL |
ヘモグロビン値(Hb) | 13.0〜16.9g/dl | 11.0〜14.6g/dl |
ヘマトクリット値(Htc) | 38.0〜49.5% | 32.0〜43.0% |
平均赤血球容積(MCV) | 85〜102fL | 82〜100fL |
網赤血球(Ret) | 0.5〜2.0% 5万〜19万/μL |
手術後、出血後のHb低下
手術後や出血直後から数時間後などでは、輸液を行うことによる希釈性のHb低下を来すことがよくありす。経時的にデータを追い、Htcの数値が同時に低下している場合希釈性として考えます。
また、慢性的に炎症反応が高値である場合、消耗性にHb低下を来しますので、合わせてWBCやCRPの推移をチェックします。
平均赤血球容積(MCV)から考える
Hb低下している原因を探る場合、MCVをチェックします。MCVとは赤血球の大きさを表す検査数値で、MCVの数値により小球性、正球性、大球性貧血に分類されます。
・小球性貧血 基準値:MCV≦80fL
鉄欠乏性、二次性貧血(腫瘍、感染症、膠原病、肝腎疾患、内分泌疾患、低栄養、妊娠)、サラセミア、鉄芽球性貧血など
※慢性の腎疾患(腎不全)ではエリスロポエチンの産生が低下し、腎性の貧血を来たします。
・正球性貧血 基準値:MCV80〜100fL
出血性、溶血性貧血、骨髄低形成、二次貧血、白血病など
・大球性貧血 基準値:MCV≧100fL
巨赤芽球性貧血(胃切除後などによるビタミンB12欠乏症、肝疾患、甲状腺機能低下症、白血病、抗がん剤使用など。
網赤血球(Ret)から分かること
Retが増加している場合は、まず急性出血か溶血があると推測できます。
Retが低下している場合は、鉄、ビタミンB12、葉酸の欠乏、慢性の炎症、腎不全、甲状腺機能低下症、骨髄低形成がある可能性を示唆します。
鉄欠乏性貧血時のフェリチン値について
フェリチン値とは、鉄の体内貯蔵を反映している数値です。
鉄欠乏性貧血の診断ではフェリチン値が12ng/ml以下であることが挙げられます。
男性20~250ng/ml、女性10~80ng/ml
通常鉄欠乏性貧血に対しては、フェロミア、インクレミン、フェジンなどの鉄剤が処方され、フェリチン値の上昇とともに中止されます。
消化管出血時のデータ変化
消化管出血の場合、血液に含まれる蛋白質が腸内で分解されてアンモニアとなり、そのアンモニアが肝臓で尿素に変換されるため、尿素窒素(BUN)は高値となります。
8〜12㎎/dl
貧血時の輸血の選択
Hb低下した場合、倦怠感やふらつき、口角炎、スプーン爪などの症状が生じます。Hb値が8g/dLを下回ると眼瞼結膜の蒼白がみられるようになります。
貧血は酸素運搬能にも影響を与えます。医師の判断にもよりますが、心筋虚血後の場合はHbが9.0〜10.0㎎/dlを下回ると輸血が検討されます。特に心臓や脳の循環に問題がない場合であればHb6.0㎎/dl台で輸血を考慮されたりします。
赤血球が増加している場合
赤血球(RBC)上昇では、脱水による相対的赤血球増加症、喫煙やストレスによる増加症をよく見ます。その他、真性、二次性に鑑別されますがここでは割愛します。
感染症、免疫能を見る
白血球数(WBC)の増加を見たら、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球のどれが増加しているか、他の血球数の異常はないか、原因疾患がないかを確認していきます。
白血球に関する血算の正常値
男性 | 女性 | |
白血球数(WBC) | 3700〜9700/μL | 3500〜8200/μL |
好中球 桿状核球+分葉核球 | 1500〜6500/μL | |
好酸球 | 700/μL以下 | |
好塩基球 | 100/μL以下 | |
リンパ球 | 1500〜3500/μL | |
単球 | 1000/μL以下 |
白血球増加の考え方
白血球増加をみた場合、臨床症状と合わせて考えることで疾患や病態を予測することができます。
- 発熱+好中球増加:急性感染症
- 発熱+リンパ球増加:ウイルス感染症
- 白血球の著明な増加+その他血球減少:急性白血病
- 好塩基球増加+骨髄球、後骨髄球陽性:慢性骨髄性白血病
- 原因不明の慢性的軽微な増加:喫煙
白血球減少の考え方
白血球減少の場合も臨床症状と合わせて考えます。下記が要因として挙げられます。
- 感染が重篤化すると白血球減少をきたすことがある
- 鉄欠乏性貧血でも軽度白血球が減少することがある
- 白血球減少+異形リンパ球を見たらウイルス感染の可能性がある
白血球減少
白血球が減少した場合ほとんどが好中球減少によるもので1000/μL以下になると病原体への抵抗力がぐっと低くなります。500/μL以下となると危険な状態であり、日和見感染症をおこし重篤な状態になる可能性があります。200/μL以下となると炎症反応は起こりません。好中球が全く好中球がない状態を無顆粒球症といいます。癌化学療法に起因する急性の好中球減少症はより感染リスクが高いとされています。
易感染状態となるわけですが、状態により陽圧室への隔離、加熱食の提供、厳密な感染管理が必要となります。
血液凝固能をみる
血液凝固能を表す血算データは血小板となります。
16万〜39万/μL
臨床では合わせて、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP)、Dダイマー(FDPD)、アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)の凝固線溶系の値を同時に確認しておきましょう。
項目 | 概要 | 基準値 |
プロトロンビン時間(PT) | 出血傾向の評価、ワーファリンのモニタリング(通常1.5〜3倍の範囲で管理) | 10.5〜13.5秒 70〜130% |
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) | 出血傾向の評価、ヘパリンのモニタリング(通常1.5〜2.5倍の範囲で管理) | 24〜36秒 |
フィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP) | 血管内に生じたフィブリンの量を反映する | 4.0μg/ml以下 |
Dダイマー(FDPD) | 二次線溶状態の亢進を鋭敏に反映する(血栓形成を反映) | 1.0μg/ml以下 |
アンチトロンビンⅢ(ATⅢ) | 体内でATⅢが複合体を形成すると抗凝固作用を強力に発揮 | 79〜121% |
プロトロンビン時間(PT)
血小板減少の考え方
血小板が減少する理由としては、産生の低下もしくは破壊亢進していることが考えられます。当てはまる疾患と病態がないか、薬剤性が考えられないかアセスメントします。
- 血小板減少を来す病態
- 肝疾患(脾腫の有無)※脾臓で破壊される
- DICがないか(qSOFAスコア2点以上)
- 白血病、再生不良性貧血
- 膠原病(突発性血小板減少性紫斑病の有無)
- 骨髄移植、肝臓移植(GVHD)
特に気をつけたい血小板減少を来す恐れのある薬剤
よく臨床で血小板減少の際薬剤性を疑われるものとしてヘパリン製剤があります。HITと呼ばれ、投与後3〜5日より血小板減少をきたすものです。
薬剤分類 | 薬剤名・備考 |
ヘパリン製剤 | HITと表現される |
抗菌薬 | リネゾリド(ザイボックス)、リファンピシン、サルファ剤、バンコマイシン |
抗けいれん薬 | カルバマゼピン(テグレトール)、フェニトイン(アレビアチン) パルプロ酸(デパケン) |
抗がん剤 | フルダラビン(フルダラ)、オキサリプラチン |
血小板増加の考え方
血小板増加を来す病態は下記のようなものがあります。
- 一過性の増加反応
- 本態性血小板血症
- 慢性骨髄性白血病
- その他血液疾患
易出血時のケア
通常血小板が8万~10万/μLまで減少すると軽度の打撲で出血斑が出現し、5万/μL以下ではさらに出血斑が出やすく、1万/μL以下になると点状出血を呈します。脳出血などをきたす恐れもあり、致命的となることがあります。
清拭の圧でも点状出血することがあるため、愛護的な日常生活の支援を行い、同時に打撲を防ぐための環境整備と指導が必要です。口腔ケア時の歯ブラシの硬さや血圧の管理などにも注意を払う必要があります。
汎血球減少
汎血球減少は赤血球、白血球、血小板のいずれもが減少している状態です。
汎血球減少症の考え方
汎血球減少をきたす疾患・病態として下記が挙げられます。
- 脾腫をきたす疾患
- 感染症、播種性血管内凝固症候群DIC
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 発作性夜間ヘモグロビン尿症
- 再生不良性貧血(慢性の経過)
- 重症感染症、急性白血病、血球貪食症候群(高度な血球減少)
おわりに
検査データは医者にとって診断をつけてモニタリングする重要なものです。検査オーダーを立てられない看護師にとっては、検査データから予測されるリスクを考慮しケアに活かすことと、観察から推測されることの答えあわせをしているようなものだとも考えています。
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