心不全は、循環器病棟に限らず一般病棟・ICU・在宅のどこでも出会う病態です。観察項目は多いですが、「うっ血」と「低灌流(低心拍出)」の2軸で整理すると、アセスメントがぐっとシンプルになります。本記事では、心不全の基本的な病態から分類、ベッドサイドでの観察ポイント、治療に合わせた看護、報告すべき増悪サインまでを解説します。


心不全とは?病態の基本

心不全とは、心臓の構造や機能の異常によって心臓のポンプ機能が低下し、息切れやむくみなどの症状が出現して、運動耐容能が低下する臨床症候群です。病名というより「状態」を表す言葉で、背景には虚血性心疾患、高血圧、弁膜症、心筋症、不整脈などの原因疾患があります。

症状は大きく、血液が渋滞する「うっ血」と、全身へ血液を送り出せない「低灌流(低心拍出)」の2つに分けて考えます。

心不全とは?うっ血と低灌流の2軸で考える図

左心不全と右心不全の症状

左心不全右心不全
うっ血の場所肺(肺うっ血)体静脈系(全身うっ血)
主な症状・所見  労作時息切れ、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難、湿性ラ音、ピンク色泡沫状痰、Ⅲ音下腿浮腫、頸静脈怒張、肝腫大、腹水、食欲不振・腹部膨満感、体重増加   
低灌流の症状   四肢冷感、倦怠感、尿量減少、意識レベル低下、脈圧の低下(左心系への血流低下により同様の症状を呈する)

実際には左心不全が続いて右心不全を合併する「両心不全」が多く、症状は混在します。

左室駆出率(LVEF)による分類

分類LVEF特徴
HFrEF
(ヘフレフ) 
40%以下収縮能が低下した心不全。予後改善薬のエビデンスが最も豊富
HFmrEF41〜49%軽度低下した心不全
HFpEF
(ヘフペフ)
50%以上収縮能は保たれ、拡張障害が主体。高齢者・高血圧・心房細動に多い
HFimpEF治療により改善 以前は40%以下だったLVEFが改善した心不全。治療の継続が重要

「EFが保たれている=軽症」ではありません。HFpEFでも急激に肺水腫をきたすことがあるため、LVEFの値だけで安心しないことが大切です。

重症度・病期の分類

NYHA心機能分類

クラス身体活動と症状
Ⅰ度心疾患はあるが、通常の身体活動では症状がない
Ⅱ度通常の身体活動(坂道・階段など)で疲労、動悸、呼吸困難が出現する
Ⅲ度通常以下の軽い身体活動(平地歩行など)で症状が出現する
Ⅳ度安静時にも症状があり、わずかな労作で増悪する

NYHA分類は問診で評価できるため、「入院前はどこまで動けていたか」「今は何をすると苦しいか」を具体的な生活動作で聴取すると、経時的な変化を追いやすくなります。

心不全ステージ分類

心不全のステージ
  • ステージA:心不全リスク(高血圧・糖尿病などのリスク因子があるが、器質的心疾患はない)
  • ステージB:前心不全(器質的心疾患はあるが、心不全症状はない)
  • ステージC:症候性心不全(心不全症状がある、または既往がある)
  • ステージD:治療抵抗性心不全(最大限の治療でも症状が持続する)

心不全は増悪と寛解を繰り返しながら、少しずつ身体機能が低下していきます。再入院を防ぐことが、そのまま予後とQOLを守ることにつながります。

左心不全・右心不全の症状と分類(LVEF・NYHA・ステージ)の図

急性心不全のアセスメント:うっ血と低灌流で考える

Nohria-Stevenson分類

身体所見だけで病態を4つに分類できる、ベッドサイド向きの分類です。「wet(うっ血あり)か dry(なし)か」「cold(低灌流あり)か warm(なし)か」を評価します。

うっ血なし(dry)うっ血あり(wet)
低灌流なし(warm)Profile A:dry-warm
代償されている状態
Profile B:wet-warm
最も多い。利尿薬・血管拡張薬が中心
低灌流あり(cold)Profile L:dry-cold
脱水・低心拍出。輸液や強心薬を検討
Profile C:wet-cold
最重症。強心薬や補助循環を検討

うっ血(wet)の所見

  • 起座呼吸、発作性夜間呼吸困難
  • 頸静脈怒張
  • 湿性ラ音
  • 浮腫、腹水、肝腫大
  • 体重増加

低灌流(cold)の所見

  • 四肢冷感、冷汗
  • 脈圧の低下(脈圧/収縮期血圧が25%未満)
  • 傾眠、不穏、反応の鈍さ
  • 尿量減少
  • 腎機能悪化、低ナトリウム血症、乳酸値上昇

クリニカルシナリオ(CS)分類

来院時(初療時)の収縮期血圧から病態を推定し、初期治療につなげる分類です。専門医でなくても初期治療が円滑に進むようにするのもこの分類の目的の一つです。

分類収縮期血圧病態の特徴主な初期対応
CS1140mmHg超急激に発症。肺水腫が主体で、全身の体液貯留は軽度なことも多いNPPV、血管拡張薬
CS2100〜140mmHg  緩徐に発症。全身性の浮腫・体液貯留が主体利尿薬、血管拡張薬
CS3100mmHg未満低灌流が主体。心原性ショックを含む強心薬、必要に応じ昇圧薬・補助循環

このほか、CS4は急性冠症候群、CS5は右心不全に伴うものとされています。

急性心不全のアセスメント(Nohria-Stevenson分類・CS分類)の図

心不全の観察ポイント

バイタルサイン

  • 血圧:値そのものに加えて脈圧にも注目する。収縮期血圧の低下や脈圧の狭小化は低心拍出のサイン
  • 脈拍・心電図:頻脈は代償反応の可能性。心房細動、心室期外収縮の増加、心室頻拍などの不整脈は増悪因子にも結果にもなる
  • 呼吸数:最も鋭敏な指標の一つ。呼吸数増加はSpO₂低下より先に現れることが多い
  • SpO₂:末梢冷感が強いと正確に測定できないことがある
  • 体温:感染は代表的な増悪因子。発熱は心拍数と酸素消費量を増やす

呼吸状態

  • 呼吸困難の程度と出現する場面(安静時/労作時/臥位)
  • 起座呼吸、発作性夜間呼吸困難の有無(夜間に何回起きるか、枕をいくつ使うか)
  • 呼吸音:下肺野の水泡音(coarse crackles)、喘鳴(心臓喘息)
  • 痰の性状:ピンク色泡沫状痰は肺水腫のサイン
  • 努力呼吸、呼吸補助筋の使用、会話が途切れるかどうか

うっ血の所見

  • 頸静脈怒張:上半身を45度挙上して観察する
  • 浮腫:下腿・足背だけでなく、臥床患者では仙骨部・背部も確認する
  • 体重:毎日同じ条件(起床後・排尿後など)で測定する
  • 腹部症状:腹部膨満感、食欲不振、悪心は腸管うっ血・肝うっ血の可能性

低灌流の所見

  • 四肢の冷感、チアノーゼ、網状皮斑
  • 毛細血管再充満時間(CRT)の延長
  • 意識レベルの変化:なんとなく元気がない、傾眠、不穏、せん妄
  • 尿量:0.5mL/kg/時を下回っていないか

「なんとなくおかしい」「ぐったりしている」という印象は低灌流の初期サインであることがあります。数値に表れる前の変化に気づけるのは、ベッドサイドにいる看護師です。

水分出納(IN/OUT)と体重

輸液・経口摂取量と尿量からバランスを評価しますが、不感蒸泄や測定誤差があるため、IN/OUTだけに頼らず体重の推移と合わせて判断します。利尿薬投与後は、反応尿量と投与後の血圧の変化をセットで観察します。

検査データ

検査みるポイント
BNP
NT-proBNP   
心室への負荷を反映。BNP 100pg/mL以上、NT-proBNP 300pg/mL以上で心不全の可能性が高い。絶対値だけでなく、その人の普段の値からの変化をみる(腎機能低下・高齢で高値、肥満で低値になりやすい)
胸部X線心胸郭比(CTR)拡大、肺うっ血、胸水、カーリーB線
心エコーLVEF、壁運動、弁膜症、下大静脈径と呼吸性変動
腎機能・電解質     BUN、Cr、Na、K。利尿薬やRAS阻害薬の影響を受けやすい
肝機能うっ血肝や低灌流でAST・ALT・ビリルビンが上昇
血液ガス・乳酸酸素化、換気、アシドーシス。乳酸値上昇は組織低灌流を示唆
ベッドサイドでの観察ポイントと検査データの図

治療に合わせた看護のポイント

心不全は増悪と寛解を繰り返す疾患です。

予後はこの増悪をいかに予防し、心機能を代償しようとする「心拡大」「心肥大」といった心筋リモデリングをさせないことが治療の一つとなります。つまり心筋を頑張らせすぎないように疾病管理をしていく必要があります。

利尿薬(フロセミド、トルバプタンなど)

  • 投与後の尿量・体重・血圧を確認する
  • 低カリウム血症による不整脈、脱水、腎機能悪化に注意する
  • トルバプタンは急激な血清ナトリウム上昇に注意し、口渇時に飲水できる環境を整える
  • 夜間頻尿による睡眠障害や転倒リスクにも配慮する

血管拡張薬(硝酸薬など)

前負荷・後負荷を軽減してうっ血を改善します。投与開始時・増量時は血圧低下に注意し、頭痛の有無も確認します。

強心薬(ドブタミンなど)

低灌流を伴う場合に使用されます。頻脈や不整脈の出現に注意し、心電図モニターを継続します。投与ルートの確実な管理と、シリンジ交換時の血圧変動にも注意が必要です。

酸素療法・NPPV

SpO₂低下や呼吸困難が強い場合に酸素投与を行い、肺水腫では肺うっ血改善目的にNPPVが早期から用いられます。NPPVはマスクフィッティング、皮膚トラブル、不安や苦痛への声かけが継続の鍵になります。

体位と安静・活動

  • 呼吸困難時はファウラー位〜起座位とし、静脈還流を減らして呼吸を楽にする
  • オーバーテーブルやクッションを使い、安楽な前傾姿勢を保つ
  • 急性期は心負荷を避けるため、清潔ケアや排泄などの動作を分散させる(二重負荷を避ける)
  • 排便時の努責を避けるため、排便コントロールを行う
  • 状態が安定したら、過度な安静を避けて早期から心臓リハビリテーションにつなげる

排便時のいきみや、安静度の急な拡大で急変した場面の経験もあります。便秘は2日以上にならないように適宜緩下剤を調整しましょう。

心不全治療薬(予後改善薬)

HFrEFでは、ARNI(またはACE阻害薬/ARB)、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の4剤が治療の柱です。(ファンタスティック4)

導入・増量時は、血圧低下、徐脈、高カリウム血症、腎機能悪化に注意します。SGLT2阻害薬では脱水、尿路・性器感染、食事がとれないときのケトアシドーシスにも注意が必要です。※血糖値が上昇しない隠れケトアシドーシスを起こすことがあります。

すぐに報告すべき増悪のサイン

こんなときはすぐに報告

  • 安静時の呼吸困難の出現・増悪、起座呼吸、呼吸数の増加
  • SpO₂の低下、ピンク色泡沫状痰
  • 収縮期血圧の低下(目安:90mmHg未満)や脈圧の狭小化
  • 四肢冷感・冷汗・意識レベルの変化
  • 尿量の急な減少
  • 新たな不整脈、頻脈・徐脈、胸痛
  • 短期間での体重増加

報告時はSBARを意識し、「いつから」「何が」「どのくらい変化したか」をバイタルサインの数値とともに伝えると、医師の判断が早くなります。

退院支援・セルフケア指導

心不全の再入院の原因には、塩分・水分の過剰摂取、内服の自己中断、過労、感染など、生活の中で予防できるものが多く含まれます。入院早期から、本人と家族の生活に合わせた支援を始めます。

  • 毎日の体重・血圧・脈拍の測定と記録(心不全手帳の活用)
  • 受診の目安を具体的に伝える(例:1週間で2kg以上の体重増加、息切れやむくみの増悪)
  • 塩分の摂りすぎを避ける。水分制限の要否は医師の指示を確認する
  • 内服の継続と、自己判断で中止しないことの説明
  • 感染予防(手洗い、インフルエンザ・肺炎球菌などのワクチン)
  • 禁煙・節酒、適度な運動の継続
  • NSAIDsなど心不全を悪化させうる薬剤・市販薬に注意する

高齢者や独居の方では、本人への指導だけでは限界があります。家族、訪問看護、ケアマネジャー、かかりつけ医など多職種と情報を共有し、地域で支える体制づくりが重要です。また、心不全は経過が予測しにくいため、早い段階から今後の過ごし方について話し合うアドバンス・ケア・プランニング(ACP)も大切な支援の一つです。

治療に合わせた看護・再入院予防の図

まとめ

  • 心不全は「うっ血」と「低灌流」の2軸でアセスメントする
  • 呼吸数、脈圧、四肢冷感、尿量、体重の変化は増悪の早期発見につながる
  • 治療薬ごとの副作用(血圧低下、電解質異常、腎機能悪化)を意識して観察する
  • 再入院予防のため、入院早期からセルフケア支援と多職種連携を進める

心不全の観察は、ひとつひとつの所見を「うっ血なのか、低灌流なのか」と意味づけることで、次に起こることの予測と報告につながります。日々のケアの参考になれば幸いです。


参考文献

  • 日本循環器学会/日本心不全学会:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン
  • 日本心不全学会:血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント 2023年改訂版

※本記事は一般的な知識の整理を目的としています。実際の観察基準や報告基準、治療方針は、各施設のマニュアルや医師の指示に従ってください。

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azuki
大学病院の外科病棟・集中治療室で十数年の実務経験があります。特定行為に係る研修制度を履修。休日は子どもたち3人、それからワンコと遊んでいます。