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薬剤関連

抗菌薬の話

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はじめに

抗菌薬が使用されるタイミングといえば炎症反応が高値の場合や手術後に使われる印象が強いのではないかと思います。

このページでは抗菌薬について、なぜこの抗菌薬なのか、なぜこのタイミングで抗菌薬を変更したのかを記載し、皆様の理解の助けになればと思います。

発熱⇒感染症ではない

発熱をした場合、感染症の可能性を考えますが、その他発熱を来す疾患は多数あります。抗菌薬を投与するためには、臨床症状、渡航歴、動物暴露歴、水辺や病原微生物への接触歴、免疫の状態、体内挿入物の状態、手術歴、ドレーン廃液や創部の状態、薬歴などの情報を得たうえで感染症を疑い抗菌薬を投与するかが検討されます。

発熱を起こす要因

感染症ウイルス、最近、リケッチア、真菌、寄生虫
自己免疫疾患SLE、結節性多発動脈炎、リウマチ、成人Still病など
中枢神経性脳出血、頭部外傷、中枢神経性腫瘍
悪性腫瘍・血液疾患固形腫瘍、リンパ腫、白血病、溶血性貧血
心臓血管系心筋梗塞、血栓性静脈炎、肺塞栓
消化器系腹腔膿瘍、炎症性腸疾患、肉芽腫性肝炎など
内分泌系甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫
化学物質薬剤性、悪性症候群、高熱症
その他サルコイドーシス、組織損傷、血腫、環境因子、詐熱※
発熱を起こす要因

※詐熱は自ら発熱があるように図った発熱(体温計を温めるなど)

病原体の特定

病原体を特定するには、病原体がいるであろう検体を採取する必要があります。それは血液、痰、尿、便、膿などであり、検体を採取する前に抗菌薬の投与を開始すると正しく特定できなくなります

病原微生物を特定する方法の一つにグラム染色という方法があります。染色のされ方、菌の形によりグラム陽性菌とグラム陰性菌、さらに球菌と桿菌に選別されます。臨床上の多くはグラム陽性球菌とグラム陰性桿菌が検出されます

細菌の分類

グラム染色別のよく検出される細菌名

  • グラム陽性球菌
    • ブドウ球菌
    • レンサ球菌
    • 腸球菌
  • グラム陰性桿菌
    • インフルエンザ菌
    • サルモネラ
    • エンテロバクター
    • 大腸菌
    • 緑膿菌
  • 嫌気性菌
    • クロストリジウムディシフル
    • バクテロイデス
  • 非定型菌
    • マイコプラズマ
    • レジオネラ菌

微生物検査の流れ

培養検査

  1. 1日目、検体を直接スライドグラスに塗りグラム染色を実施する。(起因菌の推定)
  2. 2~4日目、菌を培養を実施し、菌名の同定を行います。
  3. 3~7日目、起因菌が同定されたら、薬剤感受性の検査を行います。

迅速検査

専用のキットを使用して、5~10分で結果が出る検査です。インフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSV、A群溶連菌、ノロウイルス、ロタウイルス、コロナウイルスなどが分かります。

エンピリック治療とデエスカレーション

迅速検査を除いて、検査結果が出るまでには数日かかりますが、結果が出てから抗菌薬を決めて投与するのでは遅くなります。そのためまずはある程度の起因菌を推定したうえで、さまざまな菌に対処可能な抗菌薬(スペクトラムの広い抗菌薬)が投与されます。これをエンピリック治療と呼びます

次に起因菌の確定、感受性の結果をもとに起因菌に特によく聞く抗菌薬へと変更されます。これをデエスカレーション(De-escalation)と呼びます。これは的を絞って効果的に抗菌薬を投与する目的だけではなく、耐性菌を発生させないためにも必要です

De-escalation

抗菌薬の作用

バイオアベイラビリティ

経口投与時に問題となりますが、消化管から吸収されて門脈-肝臓で代謝を受ける際に、薬剤の効果が減少することを示します。初回通過効果とも呼ばれ、薬剤により異なります。バイオアベイラビリティが高い抗菌薬 は静脈投与から経口投与への移行がしやすくなります。

  • バイオアベイラビリティが高い抗菌薬
    • フルオロキノロン系、テトラサイクリン系、アモキシシリン、メトロニダゾール
  • バイオアベイラビリティが低い抗菌薬
    • バンコマイシン、アミノグリコシド系

ポストアンチバイオティックエフェクト(PAE)

抗菌薬を細菌に対して短時間投与すれば、その後一定時間細菌の増殖を抑制する効果のこと。

グラム陽性球菌に対してはほとんどの抗菌薬がPAEを持っており、グラム陰性桿菌にはアミノグリコシド系、フルオロキノロン系、テトラサイクリン系がPAEを持っている。

濃度依存性/時間依存性(PK/PD理論)

抗菌薬を投与すると、抗菌薬の血中濃度が上昇して代謝により低下します。最小発育阻止濃度(MIC)を下回らないように投与量、投与間隔を設定しますが、薬剤により濃度依存性抗菌薬と時間依存性抗菌薬とに分けられます

濃度依存型

濃度依存型抗菌薬:1回の投与量を多くする方が臨床効果が高い。

⇒アミノグリコシド系、フルオロキノロン系

時間依存型

時間依存型抗菌薬:数回に分けて投与した方が臨床効果が高い。

⇒ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、グリコペプチド系

抗菌薬の種類

抗菌薬の種類(商品名)が沢山あり、混乱する一つの要因だと思いますが、まず作用部位として細胞壁の合成障害、蛋白の合成阻害、核酸の合成阻害をする抗菌薬に大きく分かれます。

それぞれの系統、薬剤ごとに病原菌に対して活性と特徴が違います。培養結果が出るまでは起因菌を想定して効果があるだろう薬剤を選択します。一部ですがよく使われる薬剤を表にまとめました。

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商品名ジェネリック薬品
商品名の一部
略語特徴
βラクタム系
ペニシリン系ペニシリンGカリウムPCG特に肺炎球菌に活性あり
ビクシリンアンピシリンABPC 
サワシリンアモキシシリンAMPC 
ペントシリンピペラシンNaPIPC広域スペクトラムを持つペニシリン系薬剤。
緑膿菌への活性あり。
ユナシン-SスルバシリンABPC+SBTアンピシリンと、スルバクタムから成る合剤。
市中肺炎ので用いられることが多い。
オーグメンチンクラバモックスAMPC+CVAアモキシシリンと、クラブラン酸カリウムから成る合剤。
市中肺炎ので用いられることが多い。
ゾシンタゾピぺPIPC+TAZピペラシンとタゾバクタムから成る合剤。
尿路感染症、重症肺炎、腹腔内感染症など適応が広い。
セフェム系
第1世代
セファメジンαセファゾリンCEZグラム陽性球菌がメインターゲット。
CEZはMSSA感染症への適応あり。
ケフラールセファクロルCCL 
セフェム系
第2世代
パンスポリンセフォチアムCTMグラム陽性球菌とグラム陰性桿菌どちらともカバーする。
第1世代、第3世代セフェム系の中間的存在。
セフメタゾンセフメタゾールNaCMZ嫌気性菌に活性あり。
セフェム系
第3世代
ロセフィンセフトリアキソンCTRXグラム陰性桿菌がメインターゲット。
CTRXは髄膜炎にも適応あり。
CAZは緑膿菌に活性あり。
モダシンセフタジジムCAZ 
メイアクトMSセフジトレンピボキシルCDTR-PI 
フロモックスセフカペンピボキシルCFPN-PI 
セフェム系
第4世代
マキシピームセフェピムCFPMグラム陰性桿菌活性が強い。
カルバペネム系メロペンメロペネムMEPMMRSAには無効だが広いスペクトラムがある。
特にESBL感染で選択される。
抗菌薬一覧①
商品名ジェネリック薬品
商品名の一部
略語特徴
グリコペプチド系バンコマイシンVCMMRSA感染症への代表的薬剤。
トラフ値の測定が必要。(血中濃度)
フロオロキノロン系シプロキサンシプロフロキサシンCPFX経口剤の吸収率がほぼ100%。
非定型菌、結核菌にも活性あり。
クラビットレボフロキサシン LVFX
マクロライド系クラリスロマイシンCAM非定型肺炎での適応あり
アジスロマイシン AZM
テトラサイクリン系ミノサイクリンMINO
クリンダマイシンダラシンCLDM嫌気性菌に特化。
呼吸器感染症、A群溶連菌に適応。
一部耐性菌あり、ペニシリンアレルギーの代替薬。
メトロニダゾールアネメトロMNZ嫌気性菌に特化。
腹腔内感染、医原性肺炎、骨盤内炎症疾患、脳膿瘍、CD感染症に適応。
リネゾリドザイボックスLZD唯一バンコマイシン耐性腸球菌に有効。
MRSA感染症にも有効だが最後の切り札。
抗菌薬一覧②

投与する際の注意

投与中は腎障害・肝障害などの副作用が生じていないかはもちろん、臨床症状や採血、培養結果から抗菌薬投与の評価を行う必要があります。感染症が改善していない場合は抗菌薬を変更することもあります。また、漫然と抗菌薬を投与することにより耐性菌が発生するリスクが高まるため十分な期間、十分な量で投与し、不必要な投与は避けることが推奨されます。

初回投与時は特に、アナフィラキシーショックを起こす恐れがあるため、まず投与してから15分程度は注して観察すべきです。遅発性にアレルギー症状が起こる場合もあるため、患者さんへも症状について説明すべきです。アレルギー歴も必ず聞いておきましょう。

特徴的な副作用、注意事項がある薬剤をまとめました。

薬剤副作用備考
アミノグリコシド系腎毒性、聴力障害トラフ値の計測1日1回投与法(成人)
セフトリアキソン高用量で胆嚢に複合物が沈着投与中止、腎・尿路結石の報告もあり
血管内の混合でも結晶が発生しうる
Caを含む輸液と複合物を形成。血中で生じた結晶による死亡例あり
同時投与禁忌。投与前後でルートをフラッシュ
ニューキノロン系QT延長、テオフィリンの血中濃度上昇併用薬の確認
ST合剤過敏性の発疹、好中球減少、貧血血液検査フォロー
バンコマイシン静脈炎、腎毒性、耳毒性、レッドマン症候群※TDM(薬剤血中濃度モニタリング)
注射速度の延長、抗ヒスタミン薬の予防投与
抗菌薬副作用・注意事項

※レッドマン症候群:急速なバンコマイシンの投与により、主に上半身に紅斑が出現し、頻脈、血圧低下、血管性浮腫などの症状を伴う症候群

以下抗菌薬に関して解説しているYoutubeのリンクです。

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ABOUT ME
azuki
某大学病院の一般病棟・集中治療室で十数年の勤務経験あり。特定行為に係る研修制度を履修。休日は子どもたち3人と遊んでいます。 このブログでは広く浅くをパッと調べる目的で始めました。休憩時間や通勤時間にでも見てもらえるツールになればと、不定期更新を続けたいと思っています。 また、今やネットサイトやYouTubeからでも手軽に勉強できる時代になりました。分かりやすいと思ったものはどんどん紹介していこうと思います。

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