人工呼吸器のアラーム設定
アラームの設定については、医師の指示がある場合とない場合があるかと思います。どちらにしても患者さんの体格や呼吸の状態によって、個別に適正なアラーム設定を行わなければなりません。
呼吸器のアラームについては、施設・部署によって医師が指示簿に記載しているところもあるかと思います。指示によって設定する場合も自分で設定する場合も、適正であるかをチェックする必要があります。アラーム設定の際は、呼吸器モードのメリット・デメリットを理解のうえで行いましょう。
呼吸器モード | メリット | デメリット |
VCV(ボリュームコントロール) | 決めた換気量は保証される | 気道内圧が高くなりすぎる可能性がある ⇒気道内圧上限設定に注意 |
PCV(プレッシャーコントロール) | 圧損傷のリスクが少ない 吸気努力が大きいときも追従する | 換気量が少なくなりすぎる可能性がある ⇒一回・分時換気量下限設定に注意 |
CPAP+PS | 自発呼吸を温存できる | 換気量が少なくなりすぎる可能性がある 無呼吸の際は換気ができない ⇒一回・分時換気量下限設定に注意 ⇒無呼吸時間、バックアップ設定に注意 |
アラームを設定する際の目安を表にまとめます。初期設定のままだったり、アラームの指示が個別に考慮されてない事もありますので必ず確認するようにしましょう。
アラーム種類 | 設定の目安 | 補足 | |
1回換気量 | 下限 | 実測値の70~80%程度 |
1回換気量目安(目標) ・正常肺:8~10ml/kg ・ARDS:4~6ml/kg PaCO₂の目標は疾患、経過により判断される |
上限 | 実測値の120~130%程度 | ||
分時換気量 | 下限 | 3L/分 or PaO₂が目標に入る程度 | |
上限 | 8~10L/分 or 目標の2倍程度 | ||
気道内圧 | 下限 | 設定PEEPより3~5cmH₂O低い値 | |
上限 | 30~35cmH₂O | ||
呼吸数 | 下限 | 8~10回/分 or PaCO₂が目標に入る程度 | |
上限 | 30回/分 or 目標+5回程度 | ||
無呼吸時間 20秒~状態に応じて |
人工呼吸器のアラーム対応
アラーム対応はDOPEに沿った確認します。DOPEとは、displacement(ディスプレースメント:人工気道の位置の異常)、obstruction(オブストラクション:気道の閉塞)、pneumothorax(ニューモスラックス:気胸)、equipment failure(エクイプメントフェイラー:機 器・装置の不具合)の頭文字をとったものですが、覚えやすくしているようで横文字だから覚えられない。。
DOPEの内容が含まれるように順番つけて見るようにするといいかと思います。個人的にチェックしている内容をフローチャートにしてみました。
起こりえるトラブルについて
今までに見た、聞いたトラブルと対策を紹介します。人工呼吸器に関するヒヤリハットやインシデントは命に直結する事象になり得ます。
日本医療機能評価機構より発信されている情報は目を通しておきましょう
- https://www.pmda.go.jp/files/000143605.pdf
- https://www.info.pmda.go.jp/anzen_pmda/file/iryo_anzen11.pdf
- https://www.pmda.go.jp/files/000234781.pdf
加湿器の電源つけ忘れ
起こる頻度が比較的多い事象だと考えます。加湿器の電源は人工呼吸器と連動する機種もありますが、通常別に電源ケーブルがあります。温度表示があるかを確認しましょう。
加湿器と人工鼻の同時使用
人工鼻にも種類があり、知っている製品でなければ人工鼻と気づかないこと過去事例からあり得ます。(一見フィルターのような形状をしていないものが存在する)
呼吸器回路は目視と手で触れながら確認すべきです。
酸素供給の停止
酸素バイピングの接続忘れなどにより発生します。酸素供給低下のアラームがなるので気づくだろうと思われますが、状況により気づきません。下記はその一つの事例です
- 検査等の移動のため移動式呼吸器に変更した
- 中央配管から酸素ボンベにバイピングを差し直した
- アラームはなっていたが、呼吸器装着を変えた直後のため他のアラームだと思い込んだ
- 移動のため複数人がいたがアラームの内容の指摘はされなかった
- SPO₂が低下したことで原因を探したところ酸素ボンベの開栓忘れに気づいた
呼吸器回路の圧、センサーチューブの目詰まり
換気量や気道内圧を測定するためにセンサーチューブが装着されていますが、痰や結露によりチューブが目詰まりすることがあります。機種によりアラームで呼吸器が知らせてくれますが、定期的に回路内を点検することが必要です。
また、センサーチューブは上向きに取り付ける必要があります。
ウォータートラップの水の捨て忘れと不確実な接続
感覚的なものですがウォータートラップをつけない呼吸器回路が多くなっている印象を受けます。そのためあまり使い慣れていない方も多いのではないでしょうか。回路は手でたどって確認すべきですが、一度ウォータートラップの水が回路内に溢れて溺れているような状況を見たことがあります。
また、水を破棄した後は確実に固定を行いましょう。
突然の呼吸器動作停止
ないだろうと思われますが、何度か経験しました。単にバッテリー切れで起こる可能性もあり得ます。
経験した事例では呼吸器回路でネブライザーを併用しており、薬液が結晶化したことで呼気弁の動作が止まり突如として動作が停止しました。
その他メカニカルな原因もありますが、まずは速やかに用手換気を行わなければなりません。ベッドサイドにジャクソンリースもしくはバックバルブマスクが置いてあることは必須です。
一時的設定変更後の設定変更忘れ
気管支鏡の実施時などで一時的に酸素濃度を100%にすることがあります。処置が終わった後に元の設定に戻っていないことが起こりえます。状況としては設定を上げただけなので短期的だと患者さんへの影響はほぼありませんが、リクルートメント(無気肺改善などのため一時的に吸気圧をあげること)の際などは十分に注意が必要です。
回路外れ
回路外れはよくあることです。むしろ呼吸器回路が引っ張られたときに、挿管チューブが抜けないように安全機構として働く場合もあります。
しかし、吸引などの際にアラーム消音ボタンを押していた場合はどうでしょうか。通常2分程度アラームが消音されますが、その間に回路外れが起こった場合その間呼吸は停止します。
ベッドサイドを離れる場合はアラーム消音が解除されているかを確認しましょう。
おわりに
人工呼吸器の管理については特に気を使っているところではないかと思います。確認、観察項目が多いですが、トラブルの発生は死に直結するリスクを意味します。そのためには様々な事例を知っておくこと、適正なアラームの範囲を知っておくこと、トラブル時のトレーニングをしておくことが必要です。
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ナース研修医おたすけチャンネルさんの動画
人工呼吸器入門!④困った時の対応~これから人工呼吸器を勉強する人に