ここでは痛みの評価から、鎮痛剤の使用についてを紹介します。実際の投薬にあたっては添付文書に沿った投与を行いましょう。また、オピオイドの管理と投薬後の観察等は所属施設の緩和ケアマニュアルなどに沿うようにしましょう。
疼痛の評価
疼痛の分類
一概に痛みといっても、痛みが発生する機序から分類されています。どのような疼痛があるのかによりアプローチ方法が変わってきます。
急性疼痛 | 多くの場合時間経過とともに軽減して消失する。 |
がん疼痛 | がん細胞・破骨細胞などにの刺激により生じる。 また、放射線や抗がん剤など治療に伴う疼痛を含める。 |
非がん慢性疼痛 | 急性疾患の通常の経過を超えても持続する疼痛。 QOLの低下につながる疼痛。 |
疼痛の評価スケール
痛みを評価するにあたって評価者の主観ではなく、客観的に評価される必要があります。年齢や状態によって複数の評価方法が存在します。
数値評価スケール:NRS
痛みを0から10の11段階で評価するもの
視覚的評価スケール:VAS
100㎜の直線上で、痛みの程度を表すところに印をつけて評価するもの
フェイススケール:FPS
痛みの程度に合う顔を選んでもらい評価するもの(小児で使用するならば3歳以上が有効)
小児用の評価スケール:CHEOPS、日本語版PIPPなど
下図はCHEOPSの紹介ですが、項目ごとに評価し合計点数で評価します。
啼泣 | 泣いていない しくしく泣く 大声で泣く | 1 2 3 |
表情 | 普通 しかめっ面 微笑む | 1 2 0 |
発語 | しゃべらない、あるいは痛み以外の訴え 痛みを訴える 他のことをはっきり話す(訴えがない) | 1 2 0 |
姿勢 | 弓なりに緊張、震え、直立している。抑制されている ばたばた動く じっとしている | 2 1 0 |
手の動き | 痛みの部位に触ろうとしている 痛みの部位に触ろうとしない | 2 1 |
肢位 | ばたばたしている、抑制されている リラックスしている、穏やかな動き | 2 1 |
マクギル痛みの質問票:MPQ
痛みの種類を感覚的、情緒的側面、その他に分けてどのような要素であるかを評価するもの
ズキズキする痛み、引っ張られる痛み、焼けるような痛みなど20群の評価項目がある。
神経障害性疼痛について
神経障害性疼痛とは、感覚神経が障害されて生じ、慢性化することも多い痛みです。病態や発症機序が複雑で多彩なため、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの鎮痛薬の効果がほとんど期待できない難治性の痛みと考えられています。
がん疼痛について
今やがん疼痛に限ることはないようにも思いますが、疼痛を全人的な痛みとして捉える必要があります。全人的な痛みとは、身体的、精神的、社会的またスピリチュアル側面から全人格的に経験する苦痛と表現されます。(トータルペインの考え方)
がんの痛みに対しては単にオピオイドを投与するだけではなく多方面から介入されます。
- 原疾患治療
- 手術・化学療法・治療的放射線照射
- 薬物療法
- NSAIDs
- オピオイド
- 鎮痛補助薬
- 非薬物療法
- 神経ブロック療法
- 理学療法
- 緩和的放射線照射
- 心理・精神療法など
鎮痛薬の種類と効果
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
ステロイド構造以外の抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を持つ薬剤の総称がNSAIDs(エヌセイド)と呼ばれます。発痛物質であるプロスタグランジンの放出を抑えるため、シクロオキシナーゼ(COX)という物質を抑制します。
種類
目的に合わせて製剤が選択されます。多くの薬剤があり、よく処方されるNSAIDの一覧を表にしました。
剤形 | 商品名(一般名) |
経口薬(徐放性剤) | ボルタレンSR(ジクロフェナク) |
経口薬(プロドラッグ) | ロキソニン(ロキソプロフェン) |
クリノリル(スリンダウ) | |
セレコックス(セレコキシブ) | |
ロルカム(ロルノキシカム) | |
注射剤 | ロピオン(フルルビプロフェン) |
メチロン(スルピリン水和物) | |
座薬 | ボルタレンサポ(ジクロフェナク) |
貼付薬 | モーラスパップ(ケトプロフェン) |
経皮吸収剤 | インテバンクリーム(インドメタシン) |
副作用
共通する副作用として、腎機能障害、消化性潰瘍、血小板減少がよく知られています。腎機能低下例、消化管潰瘍の既往や消化管出血、出血傾向の方には禁忌とされます。また、アスピリンを含む製剤があり、喘息(アスピリン喘息)の既往がある場合は慎重に選択されます。
アセトアミノフェン
作用機序はまだ分かっていませんが、鎮痛剤、解熱作用があります。抗炎症作用はほとんどないとされています。大部分の代謝が肝臓で行われます。
種類
アセトアミノフェンには3つの剤形があります。
剤型 | 商品名 |
経口薬 | カロナール |
注射剤 | アセリオ |
座薬 | アンヒバ |
副作用
肝機能障害を起こすことがよく知られており、肝機能低下や肝移植後などは使用が避けられます。
弱オピオイド
オピオイドとは、オピオイド受容体に結合して鎮痛効果を得る薬剤の総称です。
非麻薬製剤と医療用麻薬に分類されます。弱オピオイドは医療用麻薬の分類ではありませんが、ペンタジンなど依存性の強い薬剤があり、向精神薬に分類される薬剤は鍵付きの戸棚等で管理が必要です。
種類
一般薬 | トラムセット(トラマドール) |
向精神薬 | ペンタジン(ペンタゾシン) |
レペタン(ブプレノルフィン) | |
セダペイン(エプタゾシン) |
強オピオイド
オピオイド受容体に強い親和性を持ちます。がん疼痛の際に用いられたり、術後などその他鎮痛剤では除痛できない痛み、挿管中の鎮痛などに使用されます。
種類
モルヒネ | オキシコドン | フェンタニル | メサドン | |
剤形種類 | 経口・注射剤 | 経口・注射剤 | 舌下・経皮・注射剤 | 経口 |
腎機能 への影響 | +++ | − | − | − |
特徴 | 臨床での使用経験が豊富であり半減期が比較的長い | モルヒネに比べて、嘔気・眠気の副作用は少ない | 便秘・嘔気の副作用は少なく、注射剤の鎮痛効果はモルヒネの50~100倍 | コントロール不良のがん疼痛に効果が期待されるが個人差が大きく半減期が長い |
副作用
鎮痛効果に先行して、嘔気と便秘が出現します。高容量になると、行動抑制、呼吸抑制が出現します。投薬初期には眠気が出現しますが、約1週間で耐性ができると言われています。
通常オピオイドの内服投与の際は、下剤と吐気止めを処方されることが一般的です。
拮抗薬
オピオイドの拮抗薬としてナロキソンがありますが、半減期がオピオイドの半減期より短いため反復投与が必要になります。
また、鎮痛薬の中にはオピオイドに拮抗してしまい鎮痛効果が減少する薬剤があります。
ペンタジン・ソセゴン(ペンタゾシン)、レペタン(ブプレノルフィン)はオピオイドと拮抗してしまうため併用は避けます。
ベース薬(定時薬)とレスキュードーズの違い
ベース薬(定時薬)とは、持続する痛みに対して決められた時間に内服する、基本投与となる薬のことです。内服して30分〜1時間で効果が最大になるとされています。
レスキュードーズとは、突出する痛みに対して即効性があり半減期の短い薬を投与することを言います。原則的に定時薬と同じ成分のもので、1日量の1/6〜1/10量を目安に処方されます。
レスキュードーズは痛みが出そうな時に積極的に使用を検討します。投与後の鎮痛の評価をしても痛みが残存する場合は反復して使用すべきですが、4回/日以上を目安に定時薬の増量(タイトレーション)が検討されます。
オピオイドスイッチング
QOLの向上を目的に、オピオイドの種類を変更することをいいます。疼痛の評価をしつつ、鎮痛補助薬や併用の鎮痛剤を検討したかなどが考慮された上で行われます。
- 副作用が強くオピオイドの継続や増量が困難な場合
- 鎮痛効果が不十分な場合
オピオイドスイッチングの実際
- 現在のオピオイドの総量を計算する(定時薬+レスキュー量=1日総量)
- 等力価量を計算し、換算表等を用いて2〜3日をかけて部分的に切り替えを行う。
MSコンチン (モルヒネ) | オキシコンチン (オキシコドン) | フェントス (フェンタニル) | タペンタ (タペンタドール) | ナルサス (ヒドロモルフォン) |
10mg/日 | 2mg/日 | |||
20~30mg/日 | 10~20mg/日 | 1mg/日 | 50~100mg/日 | 4~6mg/日 |
30~90mg/日 | 20~60mg/日 | 2mg/日 | 100~300mg/日 | 6~18mg/日 |
90~150mg/日 | 60~100mg/日 | 4mg/日 | 300~500mg/日 | 18~30mg/日 |
210~270mg/日 | 100~140mg/日 | 6mg/日 | 30~42mg/日 |
その他鎮痛薬・鎮痛補助薬
鎮痛補助薬とは、本来は痛みの治療薬として開発された薬剤ではありませんが、痛みの治療に用いられる薬剤の総称です。
神経障害性疼痛などの慢性の痛みや激痛の場合、NSAIDsなどでは痛みがとりきれない、もしくはほとんど効果が期待できないことがあり、その場合に鎮痛補助薬の使用が検討されます。
ステロイド
ステロイドとは、生体内の副腎皮質ホルモンを人工的に合成した薬剤で、強力な抗炎症作用と抗浮腫作用を発現して炎症性疼痛を軽減します。また細胞膜安定化と組織膨化抑制により、炎症細胞自体の機能も抑制する作用があります。
抗てんかん薬
神経細胞の過剰な興奮を抑制して鎮痛効果を示します。
血管拡張薬
痛みによって悪くなった血流を改善することで、痛みをやわらげる効果があるとされています。
筋緊張弛緩薬
痛みに伴って筋肉の緊張がある場合に効果があるとされています。
抗不整脈薬
神経の興奮を抑制することで、痛みをやわらげる効果があるとされています。
抗うつ薬
痛みを感じにくくする経路(下行性疼痛抑制系)を活性化することで、鎮痛作用を示します。
まとめ
今回まとめてみて思ったよりも多くの鎮痛剤があり、さまざまな鎮痛への機序があることに気づかされました。看護師は投薬者になり、最終監査者にもなるため、指示通りの投薬ではなく鎮痛剤であれ正しい知識をもって行うことが必要になります。
鎮痛剤に関連するYoutubeの動画を貼ります。
- JOさんの動画:解熱鎮痛薬の使い分け〜NSAIDsとアセトアミノフェン〜
- ネコかんさんの動画:NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を解説!
- ナース研修医おたすけチャンネルさんの動画:10分の 癌患者への鎮痛薬の使い方
- メンズNsさんの動画:教科書をわかりやすく!「モルヒネの作用・副作用機序」