血液ガス評価手順
血液ガス分析では、基本的には動脈血を採取し、呼吸の状態から酸塩基の状態、電解質やHbの数値などが30秒程度で分かる検査になります。
血液ガスの評価は下記順序で行います。評価手順について紹介をします。
- 1次評価を行う
- アニオンギャップを計算する
- 代償の予測範囲を計算する
1次評価を行う
酸素化(PaO2)、換気(PaCO2)、代謝(HCO3−)の数値が正常なのか異常なのかを見ることと、それをもとにpHの値を確認し、アシドーシス(アシデミア)なのかアルカローシス(アルカレミア)なのかをみていく必要があります。
ちなみにpHが7.35以下の状態をアシデミアと言い、アシドーシスとはアシデミアに向かう状態を指すの言葉で区別されます。(現場ではどちらでも通じますが・・・)
評価項目 | 基準値 | わかること |
PaO2(動脈血酸素分圧) | 80〜10mmHg | 酸素化の状態を評価できる |
PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧) | 40±5mmHg | 換気の状態を評価できる |
HCO3–(重炭酸イオン) | 24mEq/L | 代謝(腎機能)を評価できる |
pH | 7.40±0.05 | 7.35以下でアシデミア 7.45以上でアルカレミア |
酸素化の評価
肺胞から血液へ酸素が移行される過程の評価のことを指します。(どのくらい酸素が体に行き渡っているか)
PaO2の基準値内なのかを確認し、80mmHg以下の場合呼吸不全がある可能性があります。酸素化の評価指標としてA-aDO₂とP/F比があります。
P/F比とは
PaO₂とFiO₂の比率のことで割り算で求められます。300未満ならば呼吸不全として介入します。
A-aDO₂(肺胞動脈血酸素較差) とは
肺胞気と動脈血の酸素分圧差のことで、肺に十分な酸素が行き渡っているかの指標となります。
- 正常値5~15mmHg以下だがroom airでの正常値しかない
- ≧10mmHg 肺でのガス交換に問題がある
- <10mmHg 肺の手前の問題 呼吸中枢や気道
- 1型呼吸不全ではA-aDO₂の開大する(拡散不全)
A‐aDO₂の計算
A⁻aDO₂=(760【大気圧:PB】—47【飽和水蒸気圧:PH₂O】)×FiO₂-PaO₂-PaCO₂÷0.8【呼吸商:R】
上記式より平地でroom airのときの式は右の通り:A⁻aDO₂ =150-(1.25×PaCO2)-PaO2
※大気圧は地表で760mmHg 飽和水蒸気圧は37度で47mmHg
換気の評価
CO₂が血液から肺胞へ移行する過程のことです。(CO2がちゃんと吐き出せているのか)
PaCO2が45±5mmHgの範囲を逸脱すると、過換気によりCO2が排泄されすぎているか、低換気によりCO2が体に溜まっているのかが分かります。
肺保護換気という概念
ALI/ARDSという肺の状態では、肺コンプライアンス(柔軟性)が低下するために、人工呼吸器管理では肺の過膨張による障害を防ぐ目的で高PaCO₂を許容します。病状に応じてどのくらいのPaCO₂まで経過観察とするのかは医師の判断によります。
酸塩基平衡の評価(アシドーシス、アルカローシスの評価)
HCO₃⁻の状態から呼吸性の変化があるのか、それとも代謝性の変化なのかを判断します。
病態 | pH | PaCO₂ | HCO₃⁻ |
呼吸性アシドーシス | ↓7.35以下 | ↑35mmHg以上 | ↓24mEq/l未満 |
呼吸性アルカローシス | ↑7.45以上 | ↓35mmHg以下 | ↑24mEq/lを超える |
代謝性アシドーシス | ↓7.35以下 | ↓35mmHg未満 | ↓24mEq/l以下 |
代謝性アルカローシス | ↑7.45以上 | ↑35mmHgを超える | ↑24mEq/l以上 |
BE(base excess)
BE(ベースエクセス)とは血液ガス分析で測定(表示可能な)できる数値の一つです。pHを戻すために必要な酸の量を示しており、腎臓の代償が働いているかを表す指標となります。
-3未満であると代謝性アシドーシス、+3を超えると代謝性アルカローシスがあると判断します。
AG(アニオンギャップ)を計算する(測定できない陰イオンの計算)
AG(アニオンギャップ)とは代謝性アシドーシスの原因を鑑別するための指標であり、通常の測定では検出されない陰イオンを算出します。(例えばアルブミンや乳酸など)代謝性アシドーシスでなければ計算は不要です。
AG=Na⁺ − Cl⁻ − HCO₃⁻ ※正常値は10~12
AG値のアルブミン補正
陰イオンの計算の際に、血中にあるアルブミンも陰イオンのため、もともと低アルブミン血症などあればAGの値が変化してしまいます。そのため補正の計算をする必要があります。
補正AG=測定AG+2.5×(4.4-Alb)
AG開大性ならば補正HCO₃⁻を計算する
アニオンギャップが増加している状態を開大性と言いますが、体内のHCO₃⁻が増加する他の原因がないかを検索します。正確なHCO₃⁻の値を計算することで測定できない陰イオンの量を正確に計算できます。
補正HCO₃⁻=実測HCO₃⁻+⊿AG【測定AG-12】
- 補正HCO₃⁻<22:non-AG性代謝アシドーシス
- 補正HCO₃⁻>26:代謝性アルカローシスの合併
代償の予測範囲の計算をする
呼吸・腎代償の予測範囲の計算方法
例えば腎機能が障害され代謝性アシドーシスになった場合、体内のpHを正常に保とうとする働きにより、呼吸数が増加してCO2を排泄させて呼吸性アルカローシスの状態を引き起こします。この正常に整えようとする反応を代償作用と呼びます。
この代償作用を超えたアシドーシス・アルカローシスがある場合は生命の危機的状態に陥ります。
代償による予測値(⊿)を計算し、代償の反応が実測値の乖離していないかを求めます。数値が乖離している場合は代償反応を超えたアシドーシス、アルカローシスがあることを示します。(自分の力では正常に戻せないため治療介入が必須)
分類 | 計算式 | 代償の限界 |
呼吸性アシドーシス | 急性⊿HCO₃⁻=0.1×⊿PaCO₂【実測値‐測定値】 | 30 |
慢性⊿HCO₃⁻=0.35×⊿PaCO₂【実測値‐測定値】 | 42 | |
呼吸性アルカローシス | 急性⊿HCO₃⁻=0.2×⊿PaCO₂【実測値‐測定値】 | 18 |
慢性⊿HCO₃⁻=0.5×⊿PaCO₂【実測値‐測定値】 | 12 | |
代謝性アシドーシス | ⊿PaCO₂=⊿HCO₃⁻【実測値‐測定値】×1~1.3 | 15 |
代謝性アルカローシス | ⊿PaCO₂=⊿HCO₃⁻【実測値‐測定値】 ×0.5~1 | 60 |
※HCO₃⁻が30以上であれば慢性的な代償作用があると判断します。
下記は簡略式です(こちらの方が簡単で実用的かも)
代謝性異常のとき | PaCO₂ = HCO₃⁻ + 15 |
呼吸性異常のとき | 急性呼吸性アシドーシス HCO₃⁻ = 0.1 ×PaCO₂+ 21 |
急性呼吸性アルカローシス HCO₃⁻ = 0.2 ×PaCO₂+ 17 | |
慢性呼吸性アシドーシス HCO₃⁻ = 0.35×PaCO₂+ 11 | |
慢性呼吸性アルカローシス HCO₃⁻ = 0.5 ×PaCO₂+ 5 |
計算した値が、実測のPaCO₂、HCO₃⁻より乖離している場合代償機構の範囲を超えていると判断します。
各アシドーシス、アルカローシスを起こす主な病態
アシドーシス、アルカローシスを起こす主な病態を下の表にまとめます。
代謝性アシドーシス | AnionGapが上昇するアシドーシス:乳酸アシドーシス,ケトアシドーシス,中毒など AnionGapが正常なアシドーシス:下痢,間質性腎炎など |
代謝性アルカローシス | 脱水,利尿剤,コルチコイド,胃液嘔吐 |
呼吸性アシドーシス | 中枢神経系の抑制,胸郭機能不全,呼吸器疾患 |
呼吸性アルカローシス | 低酸素血症,過呼吸,不安,敗血症,CO2が貯まらない程度の呼吸器疾患 |
まとめ
血液ガスの評価手順を紹介しました。普段は1次評価のみで酸素化が悪い、アシドーシスがある等までを判断していることが多いと思います。その先の代償の有無やアニオンギャップを計算できるようになると病態をより理解でき、アセスメントやケアの向上にも繋げられると思います。
以下は他ブログやyoutubeのリンクです。
酸塩基平衡:血液ガスの読み方 原則編 血液ガスの読み方(酸塩基平衡) 米山先生の動画:血ガス 動脈血ガス 静脈血ガス Arterial Blood Gas アシドーシス アルカローシス ナースの頂きチャンネル:【血液ガス マスター講座#1】