簡易懸濁が上手くいかずチューブが閉塞した事例を経験された方も多いかと思います。簡易懸濁方法の手順とチューブ閉塞を予防する方法につて記載します。
簡易懸濁法とは
錠剤粉砕や脱カプセルをせずに、錠剤・カプセル剤を白湯(55度)に崩壊懸濁させて経鼻胃管、胃瘻、腸瘻より経管投与する方法を簡易懸濁(かんいけんだく)といいます。
簡易懸濁法の適応
・経管より薬剤を投与する必要がある場合
・嚥下機能の低下、小児などの理由から経口であっても懸濁して投与する必要がある場合
薬剤投与経路の確認
簡易懸濁を行う場合、多くは経管より投与することが多いと思います。経口で投薬する場合は散剤であることが多く、錠剤を溶解する機会が少ないからです。
投与経路には以下があります。
胃瘻
胃瘻は経管投与の中でも最も太さが大きく、約20~24Frであることが一般的です。形状はボタン型、チューブ型、バンパー型と分かれます。
腸瘻
腸瘻は経鼻チューブ、PEG-Jなど直接腹部からチューブを挿入しているものに分かれます。チューブ先端はトライツ靭帯を越えちょうかんないにあります。8~12Frと細い形状があるためチューブ閉塞に注意が必要です。
経鼻胃管
経鼻胃管はチューブ先端が胃内にあります。栄養、薬剤投与目的のこともあれば、減圧、ドレナージ目的で挿入していることもあるため目的を確認しておきましょう。成人用であれば5~16Frの製品が発売されており、チューブの種類もさまざまです。
※1Fr(フレンチ)は約0.33mmです。
経管チューブを詰まりにくくするためには
経管チューブの閉塞を防ぐためには下記を行いましょう。
簡易懸濁法の適否を確認しておく
薬剤投与の前に懸濁の可否を確認しておくことは大切です。多くて覚えきれないため「内服薬 経管投与ハンドブック」で確認するか、薬剤部に問い合わせて確認しましょう。また、投与前に目視で溶解できているかを確認することは必須です。
薬剤の形状がたとえ細粒だったとしても詰まるものは詰まります。また、アミティーザカプセルのような外包(軟カプセル)は溶け残りやすいが中身が出ていれば効果が得られるものもありますので調べたうえで投与するよう注意しましょう。
配合変化の有無を確認しておく
配合変化は内服薬であっても2剤以上懸濁する場合に発生します。効果が減弱するばかりでなく沈殿が生じてチューブ閉塞することがあるため注意しましょう。
懸濁すべき白湯の温度を確認しておく
例えばマグコロールでは56~61度で凝固するためチューブ閉塞の原因となります。その他推奨される薬剤の溶解温度がありますので、やはり調べて投与するようにしましょう。
チューブを清潔に保ちフラッシュする
栄養剤、薬剤投与後は必ず白湯でフラッシュしましょう。チューブ内に残った栄養剤などから細菌が発生するばかりかチューブ閉塞のリスクにもなります。
酢水によるチューブ管理
白湯でフラッシュした後に0.4%の酢水をチューブ内に満たしておく管理方法があります。これはチューブ内の細菌繁殖を抑制し、チューブ閉塞を予防することを期待して行います。0.4%酢水の作成は食用酢を10倍に希釈して作成します。
※チューブ再開通目的には使用効果がないとされています。
※高濃度酢酸液を投与した結果、小腸壊死を来したアクシデントが報告されています。必ず食用酢を使用します。
簡易懸濁法の手順
- 必要物品を準備する
- フィルムコーティングを破壊する必要がある薬剤は割って粉砕しておく
- 55度の白湯を準備する(20ml以上が望ましい)
- 薬剤を栄養シリンジ内もしくは薬杯で白湯と混ぜ10分放置する
- 栄養シリンジを転倒混和させて撹拌させる
- 栄養シリンジ内に薬剤が溶け残っていないか目視で確認する
※小児で経口から投与する場合は20mlもの懸濁液を内服することは困難です。懸濁後苦味が増す薬剤が多いため、5ml以下の少ない白湯で懸濁後速やかに投与します。
55度の白湯の必要性】
確実に錠剤・カプセル剤を溶解するためには、水温を37度以上に10分間保持する必要があり、室温に10分間自然放冷したときに37度以下にならない温度が55度です。
55度の白湯の調整方法
熱湯と冷水2:1の割合で混ぜると55度になる。(熱湯20ml+冷水10mlなど)
※給湯器、ウォーターサーバーにより違いがあります。正確に55度で調整することは困難であり、厳密に合わせる必要はないと考えます。自施設の給湯器で確認をしましょう。
簡易懸濁に適する薬剤
薬剤名にOD錠と記載のあるものは Orall Disintegration(口腔崩壊)の意味であり、簡易懸濁に適していると言えます。
※OD錠の一部は舌下で投与する薬剤があり、ミニリンメルトOD錠などは簡易懸濁禁忌
簡易懸濁に適さない薬剤
個人の経験から簡易懸濁に適さない薬剤を挙げていきますが、記載しているものはほんの一部です。施設や薬局により採用薬が違いますので、初めて投与する薬剤は「内服薬経管投与ハンドブック」などで調べておくようにしましょう。
徐放性剤全般
徐放性剤は投与後ゆっくり溶解しながら薬剤成分が放出させるため簡易懸濁は不適です。溶解できても投与すると急激に血中濃度が上昇し危険ですので、他剤や点滴に変更を依頼しましょう。
薬剤名に「徐放」の文字もしくは略語が記載されていることが多く、略語の一覧を下記にまとめました。
略語 | 意味 | 医薬品例 |
L,LA | Long Acting(長く効く) | アダラートL錠 ユニフィルLA錠 |
R | Retard(遅らせる) | デパケンR錠 |
CR | Controlled Release(放出をコントロールする) | アダラートCR錠 |
SR | Sustained Release(放出を待機させる) | ベザトールCR錠 |
TR | Time Release(効果時間を調整する) | オキシコンチンTR錠 |
※ビオフェルミンR錠はResistance(耐性)のRなので徐放性ではない
※徐放性剤でも略語がついていない薬剤もある。(グラセプターなど)
※錠剤麻薬は徐放剤のため「麻薬」を懸濁することはしない
その他徐放性剤
- バルプロ酸ナトリウムSR錠
- ※バルプロ酸ナトリウム細粒、バルプロ酸ナトリウム錠は懸濁可能
- トビエース錠
- テオドール錠
- フェログラデュメット錠 など
投与経路が舌下のもの
- ミニリンメルトOD錠
- アムロジピンODフィルム(簡易懸濁できるが、本来の投与が口腔経路)
※その他舌下錠と記載のある薬剤
腸溶性の薬剤
腸溶性の薬剤は腸で溶解されるようにコーティングされているため懸濁は不適です。しかし投与先が経腸カテーテルであれば投与が可能とされています。
- リパクレオンカプセル
- ピドキサール錠
- アザルフィジンEN錠
- サインバルタカプセル など
疎水性などその他理由により不適の薬剤
- フィコンパ細粒 (フィコンパ錠へ変更)
- アスパラカリウム錠 (グルコンサンK細粒へ変更)
- ユベラ錠 (ユベラNへ変更)
- 酸化マグネシウム (酸化マグネシウム錠へ変更(不散性のため))
- クラビット細粒 (クラビット粉粒へ変更)
- トピナ細粒(トピナ錠へ変更)
- ビオフェルミンR錠 (散剤へ変更(抗生剤使用時に投与))
- デパケン細粒
- セレニカR細粒
- イグザレルト錠
- メインテート錠
- ペンタサ顆粒
- フルコナゾールカプセル
- プラザキサカプセル
- キャブピリン錠
- リーバクト顆粒
- パナルジン
- グラマリール細粒
- アデホスコーワ顆粒(粉砕であれば可能)
- アローゼン など
径胃管の投与が禁止となる薬剤
- アルロイドG(マーロックス、スクラルファート等へ変更)
フィルムコーティングを破壊すると投与できる薬剤
- バイアスピリン錠 (アスピリンへ変更推奨)
- イーケプラ錠 (イーケプラDSへ変更推奨)
- メコバラミン錠(光への不安定性があり直後に投与)
- ワソラン錠(多めの白湯で投与)
- プラビックス錠 など
腸瘻、径腸からの投与が不適な薬剤
- タケプロン錠
- パリエット錠 など
- ※吸収が十分にされないため点滴などへ変更
配合変化に注意が必要な薬剤
- ビオフェルミン(抗生剤投与下で拮抗するためビオフェルミンR散へ変更)
- 酸化マグネシウム(メネシット、イーシードパールと併用禁忌)
病態によって注意が必要な薬剤
- プリンペラン錠(パーキンソン病ではナウゼリンへ変更)
まとめ
経鼻胃管閉塞の経験から、簡易懸濁に関してのことを紹介しました。
インターネット上でも簡易懸濁の可否に関してはまとめられたデータもありますが、投与経験がない薬剤に関しては調べて投与することを行いましょう。