ここでは頭蓋内圧亢進のメカニズム、症状とともに頭蓋内圧亢進時のケアについて記載します。
頭蓋内圧亢進の原因
頭蓋内には、脳実質、血液、髄液があり、頭蓋内圧(ICP)は10〜15mmHgの範囲が正常です。
この脳実質、血液、髄液の構成要素のうちどれかが増えた場合に頭蓋内圧が亢進します。
- 脳実質が増える原因
- 腫瘍、脳浮腫など
- 血液が増える要因
- 脳出血、血圧の上昇や血管拡張、うっ血などにより血流量が増える場合
- 髄液が増える要因
- 髄液の吸収、通過障害等による水頭症
頭蓋内圧亢進が生体に及ぼす影響としては、軽度であれば頭痛や嘔気等の症状が出現しますが、高度になると脳ヘルニアを起こし、脳実質の不可逆的障害や脳幹の圧迫により生命維持が困難となります。
脳ヘルニアの種類
脳ヘルニアには圧迫される部位によりいかに分類されます。
大脳鎌下ヘルニア(帯状回ヘルニア)
回状帯という部分が圧迫を受けます。圧迫側の脳梗塞症状や意識障害を生じます。
テント切痕ヘルニア(鉤ヘルニア)
脳幹(特に中脳)を圧迫します。動眼神経麻痺症状が生じて、瞳孔不動や対光反射の消失、呼吸障害、片麻痺、意識障害を来します。後大脳動脈の血流が阻害されるため視野障害が生じることもあります。
小脳扁桃ヘルニア(大脳頭孔ヘルニア)
脳幹(特に延髄)を圧迫します。意識障害、呼吸停止を来します。
頭蓋内圧亢進時の症状
自覚症状の変化
初期では自覚症状の変化から起こり、頭痛や嘔気嘔吐、視力障害などが生じます。
意識レベルの変化
進行すると意識障害がみられるようになります。意識障害はGCSにて評価をします。GCSを評価する際にはその時点の最良の状態で評価します。
気管切開や失語、不穏では言語評価ができませんので、人工気道はT、失語はA、不穏はIで表記します。(V4A、V1Tなど)
E 開眼 | 4 自発的に開眼する |
3 呼びかけにより開眼する | |
2 痛み刺激により開眼する | |
1 開眼しない | |
V 言語反応 | 5 正確に応答する |
4 混乱した会話、意識障害がある | |
3 不適当な言語、会話が成立しない | |
2 理解不能な声 | |
1 発語しない | |
M 運動反応 | 6 命令に従う |
5 痛み刺激に対して払いのける | |
4 痛み刺激に対して逃避する | |
3 痛み刺激で四肢の屈曲がある | |
2 痛み刺激で四肢の進展がある | |
1 痛み刺激に反応しない |
呼吸の変化
頭蓋内圧亢進により異常呼吸が生じることがあり、障害部位によってパターンが違ってきます。
循環の変化
人体は脳血流を維持しようと、頭蓋内圧に負けないように血圧を上昇させ、その分脈拍が遅くなります。これをクッシング徴候といいます。
脳神経症状
中脳が圧迫され、動眼神経や視神経を圧迫すると瞳孔の変化を来します。圧迫の態度により瞳孔不同から始まり、最終的には瞳孔は散大します。
徐脳硬直、除皮質硬直
除皮質硬直は、広範囲な大脳半球、錐体路の障害で起こります。またテント切痕ヘルニアの初期より出現することがあります。上肢はM時に屈曲し、下肢は進展します。
除脳硬直は、テント切痕ヘルニアが進行した際に脳幹の障害が生じると出現します。上下肢ともに進展します。
頭蓋内圧亢進時の治療、ケア
換気
人体の恒常性を保つため、脳血管抵抗が高まると血流を維持しようと脳血管は拡張し、脳血流を増やす働きが起こります。この働きにはPaCO2の上昇、PaO2の低下、p Hの上昇により引き起こされます。
しかし、頭蓋内圧亢進時においては脳血流の増加は頭蓋内圧をさらに高める要因ともなります。そのため、PaCO2は30〜35mm Hgの範囲で調整されることが多いです。PaCO2が20mmHg以下となるような低すぎる場合も逆に脳血流が減少しますので避ける必要があります。
ケアにおいても、効果的な気道浄化や呼吸領域の確保、薬剤等で呼吸を抑制させないように注意が必要です。
全身管理
体位の調整
頭部挙上をすることで静脈還流を促し、頭蓋内圧を低下させる効果があります。30度程度は頭側を挙上するようにします。また、呼吸状態の悪化により気道確保目的に体位を調整することもあります。
鎮痛、鎮静、解熱
刺激や興奮によって血圧が上昇し、頭蓋内圧が亢進する要因となります。吸引なども必要最低限とすべきです。また、必要に応じて適切な鎮痛・鎮静と解熱を考慮すべきです。
胸腔、腹腔内圧
胸腔内圧・腹腔内圧の上昇は頭蓋内圧と関係内容に思われますが、体腔の内圧上昇により頭蓋内の静脈還流が悪化し頭蓋内圧が亢進する要因となります。
人工呼吸器による高い吸気圧や尿カテーテルの流出不良などによる膀胱内容量の上昇などに気を配ります。
投薬治療
脳浮腫改善目的に高浸透圧利尿剤を使用します。脳組織の水分を血管内に移動させて脳内の水分を減少させることができます。マンニットールやグリセオールなどが使用されます。
また、同じく脳浮腫改善目的にステロイドが投薬されることがあります。
低体温療法
脳が障害を受けた際には脳浮腫が起こるほか、カテコールアミンやフリーラジカルといった物質の放出により進行的にダメージが加わります。これを阻止する目的で35度前後で体温を管理する方法です。
低体温療法には水冷式の冷却パッドを全身に当てるなどして行われてますが、褥瘡発生にも注意が必要です。
バルビツレート療法
脳の代謝を抑制し、脳血流量を減少させることで頭蓋内圧を低下させ脳を保護する目的で行われます。ラボナール(バルビツール)を高用量で持続投与しますが、ラボナールの副作用により呼吸抑制、血圧の低下、肝機能障害、腎機能障害を起こす恐れがあり、通常人工呼吸器管理下で昇圧剤を併用することも多いです。また、静脈炎を来たしやすい薬剤であり、血管外漏出の場合漏出部位の壊死を起こす恐れがあります。
外減圧、内減圧
頭蓋内圧の亢進が改善しない場合、救命目的で外科的介入をする事があります。頭蓋骨を一部外して減圧する(外減圧)方法と、脳組織の一部を切除して減圧する(内減圧)方法があります。
外減圧術後は、時期をみて外した骨組織もしくは人工骨で頭蓋形成が行われます。
その他 外科的治療
頭蓋内圧亢進の原因に応じて外科治療が選択されます。
- 脳腫瘍 → 開頭腫瘍切除術
- 脳出血 → 開頭血腫除去術・穿頭ドレナージ術
- 水頭症 → 脳室ドレナージ術・シャント手術
おわりに
頭蓋内圧が亢進する原因と、症状、治療についてを紹介させていただきました。症状を早期に発見し対処されないと不可逆的な変化をもたらすため、解剖生理を理解したうえで経時的に観察していくことが重要です。