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クリティカルケア

脳脊髄液のドレナージ法

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脳脊髄液ドレナージの目的と適応

脳脊髄液とは

脳脊髄液(CSF)は、中枢神経系を保護し、栄養物質の供給と廃棄物の排除を助ける無色透明な体液です。

  • 生成: 脳脊髄液は側脳室脈絡叢で一日あたり約500ml生成される。
  • 循環: 側脳室で生成された脳髄液は、モンロー孔→第三脳室→中脳水道→第四脳室→中心管または側孔(ルシュカ孔とマジャンディ孔)→くも膜下腔へと流れる。くも膜下粒より吸収され静脈洞に流れる。
  • 保護:液体による浮力で血管や神経が潰れるのを防ぎ、衝撃や振動から保護している。
  • 恒常性維持: 脳神経系の電解質や化学物質の濃度を一定に保つ。また、脳の代謝産物や廃棄物を体外へ運び出す役割をもつ。

ドレナージの目的

  • 頭蓋内圧コントロール
  • 脳室内出血の排除(血液の排出)
  • 薬剤投与(髄膜炎・脳室炎に対する抗生剤投与、腫瘍に対する抗がん剤投与)
  • 髄液漏の治療におけるドレナージ
  • ドレナージ回路を頭蓋内圧のモニタリング機能として活用できる

ドレナージの適応

脳室内出血・脳室内穿破やくも膜下出血時の血液を排出しなければならないとき

くも膜に出血が残存することによるスパズムの予防や出血に伴う2次的水頭症発症の予防を目的に適応となります。

閉塞性水頭症などの髄液の排泄経路がふさがれている場合

脳腫瘍による髄液路の閉塞や、その他何らかの原因によって髄液が排出されない病態(水頭症)の外科的治療(腫瘍摘出やシャント術)までのつなぎとしてドレナージする場合です。

胸部大動脈術後の脊髄虚血予防を行う場合

これは胸部大動脈から分岐するアダムキービッツ動脈が脊髄を栄養しています。動脈瘤に伴う阻血や人工血管置換術後の血流減少・閉塞のリスクがあり、脊髄圧が高いと虚血のリスクを高めてしまいます。あらかじめスパイナルドレナージを行い、12㎝H2O以下を目標に脊髄圧を管理しようとする予防的ドレナージです。

実施する際は原則として術後72時間後に抜去するとされています。(日本集中治療教育研究会 胸腹部大動脈手術脊髄虚血予防・治療マニュアルより)

ドレナージ方法

オンマイヤーリザーバー

オンマイヤーリザーバーは、カテーテルの先端は脳室へ挿入し、リザーバー部分を皮下に埋め込むものです。リザーバーに針を刺すことによって髄液の排出や薬剤の投与が可能となります。メリットとしては、脳室ドレーンに比べて感染のリスクが低いことです。

出典:http://jpn-spn.umin.jp/sick/a.html#a01

脳室ドレーン(EVD)・脳槽ドレーン

脳室ドレーンは頭蓋内圧をコントロールする目的で、側脳室へドレーンチューブを挿入して髄液を排出する方法です。

脳槽ドレーンはクモ膜下腔にある髄液もしくは血液を排出するために、脳槽へドレーンチューブを挿入します。例えばクモ膜下出血後の場合、クモ膜下腔に血液があると血管攣縮を起こすため血液を排出しなければならず、クモ膜下の血液を排出するために脳槽ドレーンかスパイナルドレーンが挿入されます。

頭蓋内は無菌状態であるため閉鎖ドレーンでなければなりませんが、腹腔など他のドレーンと違って髄液を排出しすぎると、低髄圧となり脳出血を来す恐れがあります。

大気と閉鎖したドレーン回路だとサイフォンの原理により髄液が過剰に排出されるため、ドレナージの途中にチャンバーとフィルターを備えた専用のドレナージシステムが必要です。

FSドレナージ回路/FS排液バック

スパイナルドレーン

スパイナルドレーンは原理や管理こそ脳室・脳槽ドレーンとほぼ変わりませんが、腰椎よりドレーンを挿入しドレナージする方法です。脳槽より下流にあるくも膜下腔内の髄液・血液排出を目的として選択されます。

ドレーン回路は脳室・脳槽ドレーンと同様のものを使用します。

外科手術によるシャント術

シャント術は脳室または腰椎からチューブを通して体腔内へドレナージする方法です。

脳室ドレーンやスパイナルドレーンでは感染のリスクがあるほか、ベッド上から動けない制限がかかるため、継続的に髄液のドレナージが必要な場合はシャント術が選択されます。

それぞれシャントの部位によって、脳室腹腔シャント(V-Pシャント)、脳室心房シャント(V-Aシャント)、脳室胸腔シャント(V-PLシャント)、脊髄腹腔シャント(L-Pシャント)と分かれます

http://jpn-spn.umin.jp/sick/a.html#a01

脳室(EVD)・脳槽・スパイナルドレーンの管理

脳槽ドレーンとスパイナルドレーンの違いは?

クモ膜下腔の髄液・血液を排液をする目的は一緒です。脳槽ドレーンは太く、血液を排出しやすいのですが、ドレナージチューブの固定が難しく、感染のリスクも高くなります。一方でスパイナルドレーンは一般の病棟でも挿入と管理が可能ですが、ドレーンが細く血液が排出されにくくなります。

イメージとしては脳室・脳槽ドレーンは急性期に集中治療室で管理し、スパイナルドレーンは病棟でも挿入と管理が可能であるため回復期や内シャント手術までの期間一般病棟で管理される感じです。

設定圧の確認方法

通常モンロー孔と同じ高さを基準として設定圧が定められます。モンロー孔は外耳孔と同じ高さにあるので、外耳孔を0点として設定圧(メモリの高さ)が設定されることが多いです。

設定圧は病状によって変化します。クモ膜下出血の急性期は血液を排出させたいため設定圧は低めに設定されます。水頭症管理では、頭蓋内圧の正常値が10~15㎝H₂Oですから、これを超えた場合に排液したいので15㎝H₂O前後で設定されます。

実際は排液の流出状況により設定圧は細かに変更されますので、医師の指示に従って設定圧を適宜確認していきます。

ドレナージ中の観察ポイント

ドレナージ中は以下を観察していきます。

  • 排液量、性状
  • 髄液の拍動の有無
  • 挿入部の滲出の有無と感染兆候
  • ドレナージ回路の異常がないか
  • その他一般的な脳神経所見・バイタルサインなど

一般的なドレーンの観察である排液量と性状に加えて、拍動の有無や回路の異常の有無を確認していきます。排液量がないもしくは拍動がなければドレーン閉塞の可能性があり、排液量が20ml/hを超えてくる場合は頭蓋内圧の上昇やオーバードレナージの可能性があります。

また、髄液の色調は血性、淡血性、淡々血性(ピンキー)、淡黄色(キサントクロミー)、無色透明と表現され、血液成分の量によって色調が変化します。

出典:https://nanwairyou.jp/minaminara/0000000216.html

ドレーン排液のカウント

ドレーンの排液量はバネばかりで測定するのが一般的です。ドレーンバック自体の重さとフックの重さを差し引いて測定をします。

回路の開放と閉鎖の手順

ドレナージ回路には4か所のクランプと2か所のフィルターがあります。クランプの開放・クランプ忘れが頭蓋内圧の亢進やオーバードレナージ(ドレナージ過多)に直結するため、一連の開放・クランプの手順を定め、チェック表を用いて確認していきます。

ドレーンクランプのタイミングとして、頭蓋内圧が一時的に上昇する処置の場合(吸引など)や0点がずれてしまう場合(体位変換やギャッチアップ)は一時的にドレーンをクランプします。一時的にクランプする場合はタイマーを用いるなどして開放を忘れないように工夫しましょう。

出典:https://www.pmda.go.jp/files/000221682.pdf
ドレナージ開放チェック表の一例

刺入部の観察

すべてのドレーンに共通しますが、刺入部の観察も重要です。刺入部の滲出(髄液漏れ)は感染リスクを高めます

脳室・脳槽ドレーンは髪の毛によってテープの固定が困難となりやすいです。刺入部を清潔に保ち、テープの固定を確認しましょう。テープの固定は通常ループを作り固定をします。

スパイナルドレーンは刺入部にフィルムドレッシングを貼付し固定します。ドレナージチューブは非常に細く切断されやすいため他のチューブと区別して管理が必要です。背部のため観察がしにくくなりますが、適宜刺入部の観察をしましょう。

トラブルの予防

ドレーン回路の確認

ドレーン回路は細く切断されやすいためその他のライン類と区別できるように管理をします。ドレーン回路のコネクト部はゆるみがないことを確認し、必要に応じてガーゼなどで保護します。

ドレーン回路のねじれや屈曲(キンク)がないことも確認します。またドレーン内で髄液の拍動、もしくは髄液の流出があるかを観察し、ない場合はドレーンの閉塞の可能性を考えます。

ドレーン回路をベッド柵などにかけてある場合、チャンバーの設定圧より高い位置にあると正しい設定圧でドレナージできないので注意が必要です。

オーバードレナージ

オーバードレナージとは、ドレナージをし過ぎてしまうことを言います。脳脊髄液は多すぎると頭蓋内圧亢進を来しますが、少なすぎると脳を保護できず低髄圧症状を引き起こします。髄圧が低いことで脳出血を起こすこともあります。

オーバードレナージは、設定圧が低すぎるかサイフォンの原理が働いた場合に起こります。

動画から分かるように、一本の管に液体が満たされている場合、水面が低い方に液体が移動してしまいます。サイフォンの原理が働かないように、ドレナージ回路の途中に穴をあけて(フィルター)大気に開放している仕組みがあるのです。

つまり、このフィルターのクランプが閉まっていたり、フィルターが濡れて目詰まりした場合はサイフォンの原理が働きオーバードレナージが起こります

予防するためにクランプの開放確認、フィルターが濡れていないかは必ず確認します。

ドレーン挿入中の感染対策

刺入部は汚染しないように管理し、刺入部の滲出があれば医師へ報告し包交を依頼します。

ドレーンのコネクト部位は清潔に取り扱い、必要に応じてガーゼなどで保護しておきます。

おわりに

EVD・脳槽・スパイナルドレーンの管理は、ドレナージを挿入する場所が特殊なため専用の回路に加えて知識と経験が必要です。それぞれのドレーンの目的と観察のポイントを押さえ、施設の方法に則った管理を行いましょう。

以下、関連する内容のYoutubeの動画です。

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ABOUT ME
azuki
某大学病院の一般病棟・集中治療室で十数年の勤務経験あり。特定行為に係る研修制度を履修。休日は子どもたち3人と遊んでいます。 このブログでは広く浅くをパッと調べる目的で始めました。休憩時間や通勤時間にでも見てもらえるツールになればと、不定期更新を続けたいと思っています。 また、今やネットサイトやYouTubeからでも手軽に勉強できる時代になりました。分かりやすいと思ったものはどんどん紹介していこうと思います。

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