ここでは脳神経所見の見方についての基本となるところを紹介しようと思います。
脳の機能局在
頭蓋内の疾患においては病変部位の機能に障害が起こります。脳神経のどの部位が障害を受けるとどのような症状が起こりうるのか、脳の機能局在(解剖)をまず知ることが必要です。
前頭葉(大脳皮質)
機能
運動を司る運動野とそれを補助する運動前野が存在します。運動野には排泄の中枢があります。
前頭前野は性格、意欲、判断、記憶と関連があり、物事を実行する機能を持っています。
主に左側にはブローカー(運動性)言語野があり、言葉を話す機能があります。
障害
前頭葉が障害を受けた場合、障害された対側の片麻痺、注意障害、遂行機能障害、運動性失語、人格変化、排泄障害、記憶障害の症状が出現します。
※遂行機能障害:計画を立てて方法を考え持続的に行動する事が難しくなる。
※運動性失語:言葉の理解は出来るが、発語として話す事が困難となる。書字でも困難な事がある。
側頭葉(大脳皮質)
機能
記憶や聴覚の中枢が存在します。海馬(記憶に最も関与する)は側頭葉に存在します。
左側にはウェルニッケ(感覚性)言語野があり、言葉を理解する機能があります。
障害
障害を受けると感覚性失語、記憶障害、聴覚障害、情動障害が出現します。アルツハイマー型認知症は両側性に側頭葉への障害を来します。
※感覚性失語:言葉の理解は不良で、辻褄の合わない言葉や違う言葉、意味の理解できない文章を話す。
頭頂葉(大脳皮質)
機能
感覚の1番上位を司る体性感覚野が存在します。空間や身体の認知、読み書き、計算に関連した機能があります。
障害
頭頂葉が障害を受けると、障害とは体側の感覚障害(温度、痛み、触覚など)や、半側空間無視が生じます。また、身体失認、失読、失書、失計算、他誌的見当識障害、着衣失行、構成障害、病態失認等と、左側の障害で観念失行、伝導失語が生じます。
※他誌的見当識障害:知っている風景が分からなくなる。知っている場所でも道に迷ってしまう。
※構成障害:模写する、積み木をするなどが出来なくなる。
※伝導失語:流暢に話すが、時折違う意味、違う言葉が混じってしまう。
半側空間無視の評価方法
細長いひもなどを準備して患者の対面に立ちます。ひもの中央を指し示すように指示をしますが、半側空間無視があると中心がずれたところを指します。
後頭葉(大脳皮質)
機能
視覚を司る視覚野があります。
障害
後頭葉の障害を受けると、障害と体側の視野が欠けてしまう半盲の症状が出現します。また、物体失認、色彩失認、相貌失認、幻覚、錯覚を生じる事があります。レビー小体型認知症などによる幻覚は後頭葉の障害であると考えられまいます。
※物体失認:見たものが何か分からなくなる。
※色彩失認:色を選択したりすることができなくなる。
※相貌失認:顔の識別ができなくなる。
脳幹
機能
脳幹には生命維持に必要な中枢が存在しています。また、12対の脳神経が分岐しており、それぞれの重要な感覚と運動の伝達をしています。
障害
脳幹が障害されると、重篤な場合心停止や呼吸停止を来します。その他錐体路が走行しており片麻痺や、感覚障害、意識障害、嚥下障害などを起こします。また、脳神経麻痺によりそれぞれの感覚、機能障害を来します。
小脳
機能
運動に関して統合して制御する役割があります。
障害
失調性の運動障害が生じます。同じ動きの反復や、複数の筋組織を使った動きが難しくなったり、振戦、失調性構音障害が出現します。また、めまいや嘔気が起こる事があります。
視床・大脳基底核
機能
視床:身体の感覚や、視覚、聴覚などを大脳に伝える機能があります。
大脳基底核:基底核は視床の周囲に位置する神経核の集まりのことを指します。
障害
視床:障害されると、感覚障害、運動失調、失語、不随意運動、情動記憶障害、意識障害などの症状が出現します。
大脳基底核:障害されると、不随意運動やパーキンソン病の症状が出現します。
脳神経
脳神経は脳幹より分岐する12対の神経のことです。頭部にはさまざまな感覚器官が存在しています。頭蓋内病変では脳神経の障害によって症状が出現することが多くどのような機能を支配しているのかを知ることは重要です。
Ⅰ嗅神経
文字通りの嗅覚を支配している神経です。
障害されると嗅覚に異常を来します。
Ⅱ視神経
視覚を支配しています。
視野障害
視神経が障害されると視野障害を来します。視神経は下垂体の上部で交差(視交叉)しており、下垂体腺腫などの圧迫により両耳側半盲(両目の外側半分の視野障害)が出現します。視索から後頭葉にかけた障害では同名半盲(両目の右または左側の視野障害)が出現します。
視野の評価方法
視野の評価は患者の対面に立ち、片目ずつ評価します。視線は看護師に合わせたままにするよう指示をし、自身が見える範囲で患者との空間にHを描き見えないところがないかを確認します。
Ⅲ動眼神経
動眼神経は眼球を内側に動かす、眼瞼を上げる、瞳孔を縮瞳させる役割を持ちます。
障害されると麻痺側の眼瞼下垂、眼球運動障害、瞳孔散大を来します。テント切痕ヘルニアによって中脳が圧迫されると動眼神経麻痺を生じます。また、内頸動脈(IC)と後交通動脈(Pcom)の分岐に動脈瘤があると動眼神経麻痺を生じることがあります。
瞳孔所見
障害を受けている側の瞳孔は、直接・間接対光反射が起こりません。テント切痕ヘルニアによる障害では両側の瞳孔が散大します。
看護が見える編集部さんの動画:瞳孔・対光反射の観察
Ⅳ滑車神経
滑車神経は眼球の斜め下方への動きのみを支配しています。
障害を受けると複視の症状が出現します。
Ⅴ三叉神経
三叉神経は、咀嚼の運動と顔面の感覚を支配します。
障害を受けると顔面の感覚障害を来たします。
Ⅵ外転神経
外転神経は眼球の外側への運動のみを支配しています。
障害を受けると複視の症状が出現します。
Ⅶ顔面神経
顔面神経は顔の筋肉の運動と、舌前2/3の味覚を支配します。
障害を受けると顔面麻痺と、味覚障害が生じます。顔面神経麻痺による症状は片側の全体的な麻痺として現れますが、大脳の障害による顔面麻痺の場合は前額部の麻痺は起こりません。
Ⅷ内耳神経(聴神経)
内耳神経は聴覚と平衡感覚を支配します。
障害によりめまい、平衡感覚障害、聴力障害を来します。
Ⅸ舌咽神経
舌咽神経は咽頭の運動と温痛覚、触圧覚、さらに舌後側1/3の味覚を支配しています。
障害により嚥下障害、構音障害、味覚障害を来します。口蓋垂を挙上できなくなり、健側に偏位するカーテン徴候がみられます。
Ⅹ迷走神経
迷走神経は咽頭、喉頭の運動と、外耳道周辺の表在覚を支配しています。副交感神経として胸腹部の内臓覚も支配します。
障害により嚥下障害、構音障害、嗄声を来します。
Ⅺ副神経
副神経は首や肩の運動を支配します。
障害を受けると首、肩の運動麻痺を生じます。
Ⅻ舌下神経
舌下神経は舌の運動を支配しています。
障害により舌の運動障害を来します。
意識障害の評価
評価指標としてJCSとGCSがあります。
JCS(Japan Coma Scale)
簡便に評価できるのが特徴です。その場での最低の状態を評価します。
0 意識鮮明 | |
Ⅰ 刺激しなくても覚醒している | 1 今ひとつはっきりしない |
2 見当識障害がある | |
3 名前、生年月日が言えない | |
Ⅱ 刺激すると覚醒する | 10 呼びかけで容易に開眼する |
20 大きな声や揺さぶりで開眼する | |
30 痛み刺激によって開眼する | |
Ⅲ 刺激しても覚醒しない | 100 痛み刺激に対して払いのける |
200 痛み刺激で手足を動かしたり顔をしかめる | |
300 痛み刺激に反応しない |
GCS(Glasgow Coma Scale)
国際的な指標で、最良の状態を評価します。(寝ているからE3とはならない)詳細な評価を行うことができます。
気管切開や失語、不穏では言語評価ができませんので、人工気道はT、失語はA、不穏はIで表記します。(V4A、V1Tなど)
E 開眼 | 4 自発的に開眼する |
3 呼びかけにより開眼する | |
2 痛み刺激により開眼する | |
1 開眼しない | |
V 言語反応 | 5 正確に応答する |
4 混乱した会話、意識障害がある | |
3 不適当な言語、会話が成立しない | |
2 理解不能な声 | |
1 発語しない | |
M 運動反応 | 6 命令に従う |
5 痛み刺激に対して払いのける | |
4 痛み刺激に対して逃避する | |
3 痛み刺激で四肢の屈曲がある | |
2 痛み刺激で四肢の進展がある | |
1 痛み刺激に反応しない |
各徴候のみかた
バレー徴候
軽症な片麻痺を評価するために用います。
上肢バレー徴候の評価は、両手の手のひらを上に向けた状態で両上肢をまっすぐ伸ばして挙上し、保持した状態で目をつぶってもらいます。麻痺側では上肢が回内しながら下がっていきます。
下肢バレー徴候の評価は、腹臥位の状態で両下肢を膝より挙上して保持するよう指示します。麻痺側では下肢が下がります。
ミガッチ−二徴候
ミガッチーニ徴候も軽度の片麻痺を評価する指標です。仰臥位の状態で両下肢の股関節と膝関節を90度に屈曲・挙上し保持するよう指示します。麻痺側では下肢が下がります。
除皮質硬直
広範囲な大脳半球、錐体路の障害で起こります。またテント切痕ヘルニアの初期より出現することがあります。上肢はM時に屈曲し、下肢は進展します。
除脳硬直
テント切痕ヘルニアが進行した際に脳幹の障害が生じると出現します。上下肢ともに進展します。
指鼻指試験
上肢の運動失調の評価方法です。評価者の指と患者自身の鼻を交互に指で触ってもらいます。失調があると上手く触ることができません。
踵膝試験
下肢の運動失調の評価方法です。仰臥位で片方の踵でもう片方の膝を触ります。そのまま脛骨に沿って足背まで動かせるかを評価します。失調があると上手くできなくなります。
徒手筋力テスト(MMT)
徒手筋力テストは筋力低下もしくは神経障害の程度を客観的に評価するための指標です。6段階で評価をします。
5 | 強い抵抗を加えても、可動域全体にわたって動かせる |
4 | 抵抗を加えても可動域全体にわたって動かせる |
3 | 抵抗を加えなければ重力に対して可動域全体にわたり動かせる |
2 | 重力を除けば可動域にわたって動かせる |
1 | 筋の収縮が僅かに確認されるだけで、関節運動は起こらない |
0 | 筋の収縮は全くみられない |
ワレンベルク症候群
延髄梗塞などで、四肢と顔面で感覚障害の左右が逆転している状態のことを指します。
ゲルストマン症候群
手指失認、左右失認、失書、失算の4症状が現れる症候群のことを指します。小児期では発達過程で見られることがありますが、経過観察にて消失することがあります。成人では優位半球(言語中枢がある半球)の障害で出現することがあります。
クッシング徴候
クッシング徴候とは頭蓋内圧亢進が起こった際に、脳血流を維持しようとした身体の反応で、血圧が上昇し、脈拍が低下することを指します。
おわりに
脳神経の観察においては、あれいつもとなんか違う、なんかおかしいをいかに発見して言語化できるかが難しいところではないかと思っています。経験によるところも勿論あるのですが、解剖生理の理解はその基本となりますので覚えておきましょう。
関連するYouTubeの動画を貼ります。
- ゴローさんの動画:大脳の機能局在の覚え方/イラスト図解で分かりやすく説明
- 画像診断チャンネルさんの動画:頭部画像CT、MRI画像を見る上で押さえておきたい7つのレベル解説動画